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映画『なぎさ』

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STORY 

思い出と夢を通して喪失と向き合う・・・。

頼れる親のいない環境で育った文直(ふみなお)とその妹、なぎさ。広い世界を求めるように、成長した文直はなぎさを残し、ひとり故郷を後にする。三年後。偶然訪れた心霊スポットのトンネルで、文直はなぎさの幽霊に出会う。そこはなぎさが事故死した現場だった。トンネルの暗闇の中、文直はなぎさを探し彷徨い始める。暗闇は罪と深い喪失の時間へ、文直を誘う。

映画『なぎさ』公式サイト - 2023年5月12日テアトル新宿より劇場公開

 

REVIEW

『せかいのおきく』をテアトル新宿に観に行った時に予告を観て気になったので観てきました。

めちゃくちゃ変な映画なんだろうなと思って観に行ってはいたけど本当に不思議な映画だった。肌触りでいうとホラーではないけどとても怖い。サスペンスなんだろうけど真っ当じゃない。

とにかく人間というものにへの畏怖。こんなに少ない要素でこんな情報量をぶつけてくるのか。

私の第一印象はこれだった。

確かに観にくいところもかなりある。ひとつのシーンがかなり長く、それなのに画面に変化がない。ずっと何も変わらないシーンが続く。それと対比されたような短いカットのシーンが来るのかと思ったら来ない。画面が暗く何もないとも思えるカットもある。だから単調であると言えば本当にそう。だけどそんなカットが続くからこそ、観ている間ずっと集中と緊張をしていて、そんな体験ができて私自身は良かったと思った。個人的な鑑賞後感は平山夢明原作を映画化した亀井亨『無垢の祈り』と近かった。

多分、画面の暗さと音楽の使い方がそう思わせるんだと思う。

ここからはネタバレ。

文直(青木柚)が画面に映し出された時、この青年は心を失っているんだなということが分かった。事前情報で知っていたから、きっとそれは死んだ妹のなぎさ(山﨑七海)を想ってのことだと考えるのだけど、あまりにも「無」なのでその理由を知りたいと思い始めながら画面を眺める。時系列が前後しながら文直のなぎさに対する想いを知っていくうちに、申し訳ないが気持ち悪いという感情が湧き上がってきた。自分自身、兄弟がいないから文直のなぎさへの想いが真っ当なのか判断がつかないけど、青年の少女への眼差しとしてはあまりにも異様に感じる。そして、文直も同じように自分のことを罰したんだと思う。だからこそ、ほとんど2人しかいない家族のなぎさを遠ざけるために一人上京した。そして、大学生としての人生を歩み始める。そういうことはよくあることなんだろうと想像できる。

けれどこれは喪失の物語。遠ざけたかった妹と死という形で永遠の別れを迎えることになる。文直としては想像もしていなかったことで、受け止めきれず仲が良かったはずの恋人さえも拒絶してしまう。妹の姿を探し求めて、彼女が事故に遭った現場に足を運ぶ。なんの意味もない、ということはわかっているのにどうしようもないのだろう。文直は成長したかった。家族から離れ、独り立ちして生きていきたかった。それが正しいと信じていたから。なのに、その選択のせいでなぎさを失ってしまった。詳しい心理状態の名前はわからないけれど、きっと起きた悪いことは全て自分のせいだと思っているのだろう。自分が正しいと思うことが全部間違いなんだとさえ思っているだろう。それが私が最初に見た「無」の文直の姿につながる。

映画の中では解決はしない。観客は文直のあの姿の理由を知るだけ。これからどうやって生きていくのかは分からないのだ。毎日すれ違う人々のこれからが分からないように、決して観客を神の視点にはさせない作品だった。これに対してとやかく言うのは無粋だと個人的に思う。

ホラーのような映像と、基本的には生のための三大欲求を描くだけという少ない要素でこれだけの情報量を与える映画は久しぶりだった。余韻しかない。だからもう少し考えたい。

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