取り留めもない

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WHAT IS "XTC"? -D.LEAGUE 23-24 ROUND.3 SEGA SAMMY LUX-

これは私が最近ハマっている日本発のダンスのプロリーグ、D.LEAGUE*1について書かれた記事です。

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XTC
略=ecstasy
エクスタシー◆通例Ecstasy◆1999年頃からアメリカの青少年の間で急激に流行している麻薬。幻覚作用があり、脳障害を引き起こす。正式名称=MDMA=methylenedioxymethamphetamine

xtcの意味・使い方|英辞郎 on the WEB

D.LEAGUE 23-24 ROUND.3でSEGA SAMMY LUX*2が披露した作品がこの"XTC"である。勝利こそ得られなかったものの、私は初めて見たその時からこの作品の魅力に取り憑かれた。

冒頭にも書いたように、"XTC"とはEcstasyのことで、簡単に言えば幻覚を見せる薬物のことである。まさしくこの作品を一度見れば、ドラッグのように観客を惑わせ、幻覚に誘い込むイメージと、その中で快楽と欲望に忠実に狂気を生きる孤独な魂のイメージのどちらもが想起される。

全ては哀愁を感じさせるように響くギターサウンドとボーカルから始まり、そこに呪いの言葉を吐くようなラップが乗り、すぐさま混乱の中でもがき苦しむ姿が眼前していく。

しっかりと真っ直ぐ前を向いているはずなのに、下には屍であり、傍観者のようでもあるありとあらゆる姿の自分がいる。一瞬、正気に戻ったと思えばそれまでの自分に苦しみ今にも破裂しそうな感情が溢れ出す。その場所から落ちていかないように、必死で足掻いてもどんどん沈んでいく。そのうちに忌々しい死神に取り憑かれたように身動きが取れなくなる。この場所では格好良く居続けなくてはならない、そう思いながら走り続けるのに、いつの間にか悪夢のような幻想の中にいる。出口のない暗い渦の中。確かなものはただこの舞台上に立ち続けたいという欲望だけ。

ステージ上で浴びる声援はまさにドラッグ。それは身体の奥底からアドレナリンを呼び起こさせ、全知全能かのような感覚に陥るとも言われている。その一方で、板の上では四方八方からの視線に射られ、丸裸にされ、孤独に晒されることもあるだろう。八つ裂きにされてゾンビのように思考が鈍っても、前に進み続けなければならない。なぜなら立ち止まってしまった瞬間に、歓声は鳴り止み真っ暗な空間に放り出されてしまうから。そしてまた再びあの圧倒的な感覚を手に入れるために、自分を曝け出し、思考を手放す。欲望に翻弄される姿そのものがそこにある。その苦しみながら欲望と対峙する姿を、ダンス表現だけでなく、ひとりひとりの繊細な表情や古さと新しさが入り混じるような曲で魅せていた。気づけばシンプルに圧倒されていた。

残念ながらこの作品で今シーズンの初勝利は得られなかった。それが分かった瞬間に彼らが味わった悔しさと苦しさは、"XTC"の中で「歓声を浴び続けたい」ともがく魂ととてもよく似ていると思った。「なんで」「どうして」「どうすれば」と自問自答する姿もまた、奇しくも彼らが表現しようとしていたものと近かったのではないかということだ。もちろん、これは勝利を手にすることで完成する作品であったはず。もしそうなれば、苦しむ魂も新たな形に姿を変えて新しい物語を紡ぎ始めたかもしれない。しかし、そうならなかった。皮肉にも。

私にはダンススキルのことなんて分からない。今、この時に"D.LEAGUEのパフォーマンス"として彼らが求められているものなんてもっと分からない。ただ踊ることが好きで、自分の中から湧き起こる「なにか」をダンスという表現で提示するしかない彼らを心底美しいと思うし、弱さと儚さを知ってますます強くなっていくことを信じている。

これが私にとっての"XTC"

簡単に後戻りはできない世界

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