取り留めもない

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映画『aftersun/アフターサン』

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STORY 

思春期真っただ中の11歳のソフィ(フランキー・コリオ)は、離れて暮らしている31歳の父親カラム(ポール・メスカル)と夏休みを過ごすため、トルコの閑散としたリゾート地にやってくる。二人はビデオカメラで互いを撮影し合い、親密な時間が流れる。20年後、当時の父の年齢になったソフィが映像を見返すと、そこには大人になって分かる父親の一面があった。

aftersun/アフターサン の映画情報 - Yahoo!映画

REVIEW

眩しい光で溢れたリゾート地。ビデオカメラに映された父と子。父親も30歳と若く、本当であれば活力に溢れている年にもかかわらず、どこか諦念を感じる。それは彼らがいつもは離れて暮らしているという状況から生まれるものかと思えば、画面を見つめているとその影はもっと父親のパーソナルな部分に理由があるらしいと分かってくる。娘に苦労なく幸せになってほしいという思いを伝える父親らしさの一方で、危うく極端な感情の移り変わりから見える幼さを受け取ると、こちらもかなり落ち着かない気持ちになっていく。

この物語はほとんど大きく動かない。淡々とリゾート地で過ごす父と子を見つめるだけ。二人の背景も明確に描くわけでもない。正直3分の2の時点で余白の多い長回しに飽きてしまう時間も多い。最近では『なぎさ』もそんな感じだった。

それなのに、クライマックスではそれまでの凪の感情を根本から覆すくらいのカタルシスに心底やられた。そのための下準備をしていたかのような展開で思わずため息が出る。決して明るい話しではない。きっとあの後父親は、混沌の中にまた漕ぎ出して、今度こそ溺れてしまうだろう。そんな思い出を、記録のビデオテープの映像を眺めるソフィと追体験する。ソフィはきっと何度も「あの時こうしていたら」と考えたのだろう。そんなの無意味だと分かっていても、他にどうすることもできない。ただ、彼女にも家族ができて、父親の見え方も変わってきているように感じる。それでも変わらないのは、トルコでの時間が彼女にとって輝かしく、同時に悲しい時間だったということだと思う。

鑑賞後感としてはなんとも言い表せない気持ち。久しぶりに「映画を観た」と思える作品だった。

音楽の使い方はグザヴィエ・ドランっぽかったかも。『胸騒ぎの恋人』とか思い出した。

 

 

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