取り留めもない

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舞台『Our bad magnet』

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STORY

舞台はスコットランド南西部の海岸にある小さな町、ガーヴァン。登場するのはアラン、フレイザー、ポール、ゴードンの4人の同級生たち。
かつては人気観光地だったがすっかりすたれてしまったその町に、29歳になった彼らが苦い思い出を抱えながら集まってくる。
地元に残ったアラン、元リーダー格のフレイザー、ロンドンで働くポール、そして…。
彼らの9歳、19歳の場面を行き来しながら、思い出たちが少しずつ明らかになっていく…。劇中劇を盛り込みながら、現実とファンタジーが交差し人生の真実を浮き彫りにしていく切なく美しい青春物語。

https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2341813

REVIEW

再演したらまた観たいと思い続けて数年。ようやく実現しました。

前回上演された『淋しいマグネット』とは違い、今回は戯曲通りスコットランドの街で出会った青年たちの話。去年見たとある作品に対して土着的な肌触りが感じられなくて残念に思ったこともあり、果たして没入できるかどうかと少し不安だったんだけど、そんなのは杞憂だった。

『淋しいマグネット』はDVDを買って何度も観ていたおかげで筋は全てわかっていたから初見でも物語がすんなり自分の中に入ってきたし、だからこそ見ている世界の先にある結末を思って、客席まで使って歩き回る彼らから目が離せなかった。

まずそこにいたのは地元にとどまったアラン(奥田一平 )。何も言葉を発さなくても、仕草や身振りで明るくひょうきんな人物だとわかる。次に現れたリーダー格のフレイザー松島庄汰)は鬱々とした表情で今にも怒り出しそうだ。続いて現れたポール(木戸邑弥)は2人とは違い、真面目な社会人というような雰囲気。かつて仲が良かったのかもしれないが、今は違う。そういう幕開け。

思い出を振り返れば振り返るほどにつらく、そのせいで怒りが込み上げるフレイザーに対して、ポールは思い出を乗り越えようと提案する。そんな2人の雰囲気を知ってか知らずか、能天気というか、無粋なアランは今の自分や自分が作ったものについて聞いてもらいたくて仕方がない。そこにある感情の全てがチグハグで、本当に仲が良かったのかと疑いたくなるほど。そこから回想を経ていくと、ここにいないゴードン(小西成弥)という青年の存在が彼らを変えたことが分かってくる。

この話の展開自体はとても良くあるフォーマットのように思うけれど、この作品の面白いところはゴードンが作り語る物語が彼ら自身と重なっていくということ。フレイザーが「子供が書ける内容じゃない」と言い捨てるように、確かにどこからか湧いて出てきたように惹き込まれる。それらを生み出したゴードンは、フレイザーにとっては光で、ポールにとっては恐怖で、アランにとっては異星人のような存在だったんだと思う。そうやって、同じ人物に対してもさまざまなイメージがあるせいで最後まで彼らは噛み合わず、磁石のように反発し合っていた。一方で、そんな彼らを再び結びつけることができるのも、ゴードンの存在だったんだと思う。

これはゴードンの呪いだ。

ゴードンはやっと見つけたかけがえのないものを守るために必死に生き、そしてそれが指の間からすり抜けていく前に、大切に思っていたものたちに呪いをかけてしまった。もちろん、その代償は大きかった。それでも彼は信じていたから問題ない。諸悪の根源は自分であり、そしてバラバラにならないように繋ぎ止められるのも自分であると。自分を悪いマグネットに例え、そしてみんなの前から消えた。なんて愚かで強いんだろう。

ゴードンと一番心を通わせていたのはフレイザーだと思う。自分を父親の鎖から解き放ってくれたフレイザーをゴードンはどうやったって恨めやしない。だからフレイザーに「要らない」と言われることは、つまり死と等しいということになる。

ポールはフレイザーからゴードンを遠ざけたかった。みんなのボスであるフレイザーが、光であるゴードンに飲み込まれていってしまう気がしたから。でも、そうならないために放った言葉に悔いてもいる。心のどこかで、ゴードンを殺したのは自分だと思っている。だからこそ、ゴードンの存在を、彼が書いた物語をゴードンの代わりに「生かそう」とした。その一方でポールはとてもプライドが高いから、そんな思いを直接的には言えないし、そのせいで自分の首を絞めていることにも気がつかない。それが最後の彼の姿。フレイザーにも「偽善者」の烙印を押され、アランにも疑いをかけられるその姿が痛々しい。

アランだって明るくひょうきんに振る舞ってはいるものの、それはバランスを取ることが目的ではなく、かなり利己的に物事を進めるためと思てならない。例えば、ティナが妊娠し産むことを拒絶された時。落ち着くまで離れた方が良いと小屋に籠っていたのはティナのためじゃなく、自分自身のため。大きな問題に目を背けたかったから。私はアランの明るさにはそういう暗さを感じる。ただ、アランの根本は優しい気持ちになんだと思う。それをうまく表現できないだけ。

みんなゴードンの残した呪いから目を背けて生きてきた。自分たちの幼さや狡猾さからも。こうして再会しなければきっとそのままだった。けれど、彼らはあの崖に、消えてなくなったはずの学校に集まった。そして最後、彼らの前で空の花園に亀裂が入って崩れ落ちた。花びらが降り注いだ時、フレイザー、ポール、アランはその呪いにようやく気がついたんだと思う。

花びらと共にこぼれ落ちた種から芽が出るように、今度は上手くいくだろうか。

私には分からない。

 

公式サイト

池袋シアターウエストにて4/16まで

 

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