取り留めもない

映画や舞台の感想書いたり、たまに日記も

イーヴと有吉とJの世界が頭の中で交わっては消える

『クロードと一緒に』を観る前に、あらすじや他の人の感想を読んでその世界がどのあたりにあるのだろうかと考えていた。いや、実際にはそんなものないのだけど、物語の指し示す大筋の方向性として、こちらの方だという世界を私はすでに知っていると思った。

そして、前述の作品を観劇した。ここからはほとんどが日記のようなもの。

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今回『クロードと一緒に』を二度も見たのにも関わらず、イーヴがクロードを「殺した」と断定できなかったのには理由がある。それは、『46億年の恋』で「有吉淳が香月史郎を殺すことができなかった」ということを知っていたからだと思う。

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有吉が殺したいほど愛した人はクロードのように学があり、金もあるような人格者ではなかった。寧ろ、香月は子供のころから孤独に生きて、血も涙も乾ききり、この世で誰一人にも感情を傾けることができなくなった可愛そうな男だった。そして、それは或る時、本当にある一点。(おそらくそれは三重の虹を見た時)香月自身も、自分がもう後には引けないほどの暗部に迷い込んでしまったことに気がついた。まやかしだったのかもしれない。それでも、有吉は香月を愛し、苦しみを、喜びを、分かち合い、一つになりたかった。でも、なれなかった。香月がそれを「自らの死」という形で拒んだから。有吉は最後まで香月と「関わり」を持つことがなかった。だから、香月の最期くらい有吉が下したかった。でも、できなかった。香月がそれを「自らの死」という形で拒んだから。

香月は自らの未来が見えた時、自分で自分の命を絶った。

これが『46億年の恋』の顛末。一人残された有吉は愛した人を、本当に愛していたと証明することもできないまま、独り生きていくしかない。この物語が自分にとってあまりにも大きく、深く心に刻み込まれていたために、「クロードはキッチンで愛を交わした時、イーヴがそうであったように、自分の未来が見えた。だから自ら死を選んだ」というようにも考えられるのではないかと思った。そして、有吉にはできなかった愛の証明をイーヴは見事に遂げた。そういう物語なのではないかと思った。

真実は分からない。でも、真実などあまり重要ではない。

あまりにも、あまりにも悲しい気持ちになったので、幸福な世界についても考えてみた。もし、クロードが強く、大きくイーヴを愛してくれたら二人で生きていくこともできたんじゃないかと思う。

『Jの総て』のJはこの世に生まれ落ちてから、たった一人の愛する人を見つけ、自分らしく生きるため、そして愛する人を真っすぐに愛することだけを考えていた天真爛漫な人。『クロードと一緒に』では、イーヴとクロードが楽しく過ごした日々についてほとんど触れられていないから、イーヴの人となりについて想像するほかないけど、松田凌という俳優が演じた「イーヴ」は「J」に近い人物なんじゃないかと思う。

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これに書いたように、松田凌の魅力のひとつは「少年性」だと思う。キラキラとして眩しく、若さと希望に満ち溢れている。そんな「少年性」。無邪気で無垢で、時折世界のすべてを見透かすようなまなざしを持っている。その点において「イーヴ」と「J」はよく似ている。

それでは、なぜ二人の結末は違ってしまったのか。

ひとえに、彼らの純粋な愛情をその相手が受け入れることができるかどうかということにあると思う。『Jの総て』でJの愛したポールはユダヤ人で、この作品の舞台である50~60年代のアメリカでも彼を差別する視線を生まれた時から感じ、そしてその後Jと出会うことで同性愛という壁にもぶつかる。だがしかし、ポールは涙の後にJの手を取ることを決めて、生きていくことを選んだ。この『Jの総て』の舞台である、自由の国アメリカと同様、リベラルな国と言われてきた60年代のカナダでも、男娼と愛し合うことは容易いことではなかったはず。良家に生まれ育ったクロードは、果たして苦しみを乗り越えられただろうか。最後の最後までイーヴを放さずにいてくれただろうか。そんな強さと大きさが彼にはあっただろうか。少なくとも、この作品の作者はクロードをポールのような人物にはしなかった。でももし、もう少しクロードに考える時間と余裕があったら、未来に絶望するよりも未来を夢見ることができたなら、Jとポールのように手を取り合うことができたんじゃないかそう思えて仕方ない。

想像するだけ自由なので、ああだこうだ考えてみるけど、「こうなればよかったのに」 と思うことは決してなくて、自分の中で改変も必要としていない。寧ろ、他にもこういう世界があったはずなのにそうはならなかった『クロードと一緒に』の世界が好きなのだろうなと強く、強く思う。

ただ何度も繰り返してしまうけれど、再演・再々演とイーヴを演じた松田凌は確実に有吉と香月の愛を知っていたということに、物語の世界の交わりを感じずにはいられないし、観る前に考えていた「私のすでに知っている世界」ともつながっているのかもしれないと思うのであった。

以上日記でした。

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