取り留めもない

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劇団殺し15周年記念・怒パンク時代劇『名なしの侍』

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STORY

合戦孤児たちが集まる一本松道場には剣で名をあげたいと夢見る茂吉、直、次郎、三郎、そして農民として生きることを望み武士を嫌う伝助がいた。そこに、虎蔵という武家の出という少年がやってきて、切磋琢磨しながら暮らしていたのだが、ある出来事をきっかけに、「名なしの侍」である孤児たちはバラバラになっていく。

REVIEW

音楽

「時代劇が好きじゃない」と豪語していた鹿殺しさんの「怒パンク時代劇」。ほぼライブって体感でめちゃくちゃパンクでした!前回観たのは『キルミーアゲイン』で、その時も楽器隊の活躍甚だしいという感じだったけど、今回は場所をサンシャイン劇場と大きくして、ドラムセットとギターべ―スを配置し、そのうえシンガーソングライターの堂島孝平さんが居たらそこはライブ会場でした。パンクかというとパンクではないけど、基本的には「音楽がやたらかっこいい」まずはそこに尽きる。バスドラムがずんずん来るのが久しぶり過ぎたので、心臓が痛かった。ドラムの鼓動響さん(辰巳裕二郎)マジかっこいいです。

正直、展開が秀逸であるとか、感情表現が細かいとか、そういった込み入ったお話しではないので、とにもかくにも熱量!その熱量をどれだけ観客に伝えられるかというところで、会場規模が大きくなったらどうなるんだろうと思っていたところを、音楽がアシストしていたというか、音楽ってすげえなという感じ。話のメリハリが強調されていた。特に、最後の合戦シーンは、(まあそのための前半のわちゃわちゃ感なので)「怒パンク」のドは「怒涛」のドだと思うくらい、それまでの「かっこわるさ」が「かっこよさ」に昇華されてた。いくぶん音楽がオラオラし過ぎて、テンションを合わせるまでに時間がかかったけど。

物語

物語が先に書いたように、別に難しいことなくて、一緒に大人になると思っていた孤児たちが時代に、そして大人たちに翻弄されて、結果として互いに刃を合わせることになって、散っていくという、時代劇としては「よくある筋」。それを鹿殺しさんがやると、ここまで消化されるんだなというか、「NHKじゃなくて下北沢の劇場で観ています!」というような人間臭い話になるんだなという。もとより、農民の子供たちには武士の美学はないので、その時代で個々人がどうやって生きていくか、望みを叶えるかという、普遍的な問題の話なんですよね。だから、どの登場人物にも人間の熱を感じることができる。劇団員の方たちは、素のキャラクターと役を行き来しているような感じもしたし、鹿殺しさんの表現の全身全霊という感じでした。

演出

かねてから演出の菜月チョビさんと、脚本の丸尾丸一郎さんの好みが真逆で、その二人の折衷案にしていくという妥協なのか最善なのか判断がつかない演出スタイル、個人的には面白いと思う。集団として同じような好みの人が集まれば、その前提があった上で差異が生まれてくるのが普通なのに、趣向の時点で違ったらそれはもう「多様性の魅力」を信じるしかないじゃない。それを15年間続けてこられるってすごいなというただの感想ですけど、本気でぶつからないと本気の折衷案も生まれないわけだし、やっぱりすごいな。

時代劇と鹿殺しテイストの組み合わせでいえば、砂岡事務所プロデュース『絵本合法衢』を思い出したりもした。

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キャスト

丸尾丸一郎(茂吉)

めちゃくちゃ普通の人というかノーマルな立ち位置な丸尾さんで驚いたというか、あまり主張せず、でも締めるところはしっかりという姿がかっこよかった。お父さんって感じ。思い返してみると、正直あまり孤児としては見ていなかった(見た目が主な理由)。

菜月チョビ(直)

歌って演じて、演出もしてパワフルな人だよなほんと。直は、名前の通り実直で、自分の夢と、みんなの幸せを真っすぐに考えている人なのでチョビさんのままなのかなとも思った。

オレノグラフティ(虎蔵)

前回の『キルミーアゲイン』で完全に声をつぶしていたから、割と心配していたけど、今回は初日だしそういうこともなく、はじめからものすごい熱量の塊で、存在としてキラキラしているというか、「演劇が好きです!」というのがビシバシ伝わってきた。でも基本は、虎蔵というよりオレノさん。

虎蔵はどうありたかったんだろう。侍として名をあげたかったのだろうか。本当は居場所さえあればなんでも良かったんじゃないかな。

橘輝(千代竹)

テカリさんの演技とても好きなんです!可愛らしさと頑固そうな雰囲気を併せ持った感じ。とにかく憎めない。竹千代が自分の人生を自分で切り開いていく姿、それによって一人になっていく姿がかっこよかった。

堂島孝平(次郎)

やたら歌を任されるし、上手いしなんなのと思っていたら歌手の方。琵琶のような、おそらくギターを弾き語りしている姿は、確かに琵琶法師っぽかった。次郎は三郎と二人で一人。例えて言うなら『鉄コン筋クリート』のシロなので、暴力からは隔離されて、それによって三郎とも離れ離れになるのだけど、最後には自分自身も戦いに参加する。よくあるパターンだけど歌のおかげもあって泣けた。

鳥越裕貴(三郎)

例えて言えば『鉄コン筋クリート』のクロ。少しだけ頭が良くて、少しだけずるくて、いろんなことをそつなくこなせるんだけど、一番にはなれないタイプ。次郎ほどには兄弟のつながりを強調してないけれど、身を崩すときは一人でがむしゃらに突っ走ってしまう時で、それに気が付いたときはもう遅いという。それに、お鶴への想いも叶えられずとにかく切ない。

単純に鳥越くんが出てる作品を定期的に見てるファンからすると、しゃべるだけでも楽しいんだけど、今回は急にラップし始めてこれは「フリースタイルダンジョン」かなと思った。さすが鹿殺しさんタイムリー。グッズとしてリハ音源も売ってるのでぜひ聴いてな。あと「勃起する」って言ってた。

玉城裕規(伝助)

(強めのネタバレ)周りがみんな侍として成功しようと志す中、自分は農民として田畑を耕して生きていきたいと言っていた伝助。その伝助が刀を握ることになるのも、それを振るって人を殺すことも伝助を取り巻く環境のせいかと思いきや、本当は自分から端を発していた。それに気が付いて自暴自棄になったり、それでも家族だった仲間たちを守るために必死に戦ったり、何もかもが悪い方向に進んでいく伝助を見ていると愛おしく思わずにはいられない。というか、伝助にばっかり背景がありすぎてなにこのキャラクターの濃さ。伝助じゃないってどう言うことや。玉城裕規に業を背負わせたら最高ってよくご存じでって感じじゃないですか。それに、表立ってこの作品の主演について言われていないけど、伝助と虎蔵の物語であることは確かなので、クライマックスで最初のくだりと繋がった時にはぐっときた。(ネタバレ終わり)

あと玉城くんの殺陣は美しい。美しすぎる。他が鎌とか振ってるのに、農民でありたかった伝助があんなにうまいんじゃあね。でも、美しい。それは正義。

 

総論、思ってたよりライブシーン多く、史実を踏まえた作りになっていた。なにも考えずに見ることがエンターテインメントで本当に楽しかったです。15周年目最後の次回公演『image KILL THE KING』まで突っ走っていってほしいです。

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