ビッグデータで物事の相関が弾き出され、総てを予測することが当然になった世界では、まだなにも成していない犯罪者たちから身を守るために、被害者予備軍が自らを鉄格子の中に閉じ込めていた。この世界では犯罪は未然に予測され、「犯罪者」に認定されたら最後、その囲いから追い出される。それは何百年も前に法律で決められた。
そしてその日もまた一人、門の前に少年が連れてこられた。
彼は、中ではほかの人となにも変わらない、いたって普通の少年だった。けれど昨晩、検査で「殺人者」と認定されたのだ。その言葉が最後。否定しても、拒絶しても彼は「犯罪者」。そして、そこを出るということは彼らの常識で言えば「死人」ということ。その現実を前にして泣き叫ぶ母親を横目に、少年は冷静だった。
門の前で彼は見送りに来ていた幼馴染に別れを告げようとしていた。
その幼馴染は「なんで」と「どうして」を繰り返し、それに対して彼は「仕方ないよ」とだけ答えた。仕方ないのだ。その世界では、犯罪は被害者から回避され、犯罪者は忘れられる。データが総てを握り、それ以外はなんの意味も持たない。「それでも離れたくないよ」と幼馴染は言った。それを聞いた彼は、幼馴染の手を掴んでその先へ飛び出した。
彼は「犯罪者」となり、彼は幼馴染を殺した。そして彼らは別の世界を歩き出した。
というようなことを考えるような本でした。
なお、本書には上記のような物語要素は全くない。