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ピースピット2017年本公演『グランギニョル』

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STORY

特権階級である名門貴族の家督者であり、吸血種の統治機関《血盟議会》の若手議員でもあるダリ・デリコ。

ダリはある日、上司ヨハネスより停職処分を受ける。ダリが遂行した異教団殲滅作戦の際に、保護されたスーという《人間の女》が身籠った赤子が、ダリの子であるという疑惑が議会にリークされたからだ。もしそのことが明るみとなれば、それは吸血種と人間種の間で締結された《不可侵条約》に違反する行為であり、将来を嘱望されていたダリの失脚に繋がりかねなかった。 だが、停職中であるはずのダリは、ヨハネスよりある事件を秘密裏に捜査することを命じられる。それは、各地で発生していた《繭期少年少女失踪事件》の真相を解明せよというものであった。ダリは、任務補佐官に任命された下級議員マルコと、護衛 兼 合同捜査官として派遣されたヴァンパイアハンター歌麿と春林らと捜査チームを結成し、事件を追うこととなる。

事件を追う中で、《黒薔薇館》という闇の社交倶楽部が捜査線上に浮かびあがる。その黒薔薇館の会員の中に、ダリの同期議員であるゲルハルトの姿があった。またダリたちはその社交倶楽部で、不老不死を研究するバルラハという男と、ダミアンという謎の人物と接触する。ダミアンは、歌麿と春林が長年追っている、多くの猟奇的事件を裏で糸引いていると目される吸血種だった。またバルラハの傍には、アンリ、キキ、オズという三人の吸血種の少年少女たちが付き従っていた。三人は、失踪者リストに掲載されている吸血種たちであった。

一方、教団の残党から命を狙われるスーは、デリコ家の屋敷に匿われていた。だが、人間である彼女は屋敷の使用人たちから嫌悪され、不遇の扱いを受ける。その彼女を庇ったのは、ダリの妻であるフリーダであった。スーとフリーダは、次第に心を通わせていく。しかし、スーを身籠らせたダリのスクープを追う新聞記者ジャックがフリーダに近づく。

混迷する人間関係、血盟議会という巨大組織との対峙、陰謀渦巻く黒薔薇館、そして吸血種の間で伝承される原初の吸血種《TRUMP》の不死伝説──事件を解き明かした先で、ダリがたどりつく真実とは?

STORY | ピースピット2017年本公演≪TRUMPシリーズ最新作≫『グランギニョル -Grand Guignol-』 作・演出:末満健一

REVIEW

現在進行形でD2版『TRUMP』を観ている。ダリ様登場シーンで今までに感じたことのない得体の知れない感情が渦巻いている。ふざけた父さんだなと思っていた「ダリちゃ~~~ん」のくだりも涙が出てきそうになる。世界が反転するというTRUMPシリーズの醍醐味がまたここにもあった。以降ネタバレ。

デリコ家が粛清していた原初信仰の信者たちの復讐のために残酷劇の主役に奉られたダリ・デリコ(染谷俊之)は、同時に暗澹たる呪いをかけられた。彼の前にはいつも惨劇が広がっている。どれだけ抵抗しようとも愛するものを失ってしまう。彼の黒い運命は彼の明朗さとは似ても似つかない。藻掻いても抜け出すことができない哀しき運命。ダリは残酷劇を繰り返す。これからも永遠に。そのことを分かっていても彼は目の前の惨劇を見つめることしかできない。彼が信じていなかったTRUMPが生を感じるための残酷劇。例えその存在を認めていてもダリは決してTRUMPに祈らない。彼の大切なものを奪ったのもまたTRUMPが原因だと知っているから。知っていたとしても、彼には何もできない。やはり彼には生きてそれを見つめることしかできない。時間をかけてダリは自分の無力感を実感する。

このダリ・デリコを演じたのが染谷俊之という俳優で本当に良かったと思った。彼の飄々とした魅力。内側に感じる情熱。それがダリ・デリコという人物を体現しているようだった。そしてなにより殺陣が上手い。ダリ・デリコという人物の高潔で唯一無二の強さを所作だけで感じさせていた。

  • ゲルハルトの憂鬱

ゲルハルト・フラ(三浦涼介)は父を超える完璧な貴族になるために不老不死になること、そしてフラ家を絶やさないこと、この二つをどうしても叶えたかった。けれど望むものには与えられないのがTRUMPの世界。ゲルハルトに遺されたのは自分と血の繋がらないアンジェリコ。そのアンジェリコが美しく成長したことを私は知っている。そして、グランギニョルの中に死んでいくことも。想像でしかないが、アンジェリコはゲルハルトを心から尊敬し生きてきたのではないかと思う。けれど何も知らないアンジェリコ。そのアンジェリコを慈しみ育てるゲルハルト。彼がどう愛せばアンジェリコはウルに刃を向けないで生き延びることができたのか。これはもう総てにおいてダミアン・ストーンの呪いが優ったという他ないのかもしれない。

ゲルハルトを演じた三浦涼介は少女のように麗しく、岩のごとく硬い意志を持つまさに貴族という感じ。パンフレットのコメントにも書いていたけれど、彼自身の生い立ちとゲルハルトと重なる部分があるのかもしれない。不意に見せる儚げな表情の奥に、彼の歴史のようなものを感じた。

  • ダミアン・ストーンという新キャラ

未だにどう受け止めようか考えあぐねている。かつてTRUMPに近い存在で、TRUMPに尽くしてきたのであれば、彼はTRUMPに再び巡り合うことを願っているフォロワーのだろうか。それともすでにどこにいるか知っている俯瞰的存在なのだろうか。と考えつつ、ダミアン・ストーン(栗山航)の所業を省みた時、TRUMPに生きていることを実感させるという機能だけでいえば救い主なのだけど、TRUMPが本当に欲しているのは有限な生を生きている人間だし、死ぬことだよねっていう。TRUMPが上位概念だと思っていたところに、それをも司る存在が現れたことがなにより恐ろしかった。本事件はこのウルが起こしたのか、それとも彼の中にいるダミアン・ストーンが起こしたのか。そして本当のウルは子どもたちに何を願っているのだろうか。

栗山航くんは牙狼でめっちゃわんこだったな~という記憶だったんだけど、まず殺陣がメッチャ上手い。牙狼これ好きで何度も観ちゃう。じゅんねる大好き過ぎ。あっと話がそれた。出てきた時から怪しい雰囲気がしたっていうか、ただの脇役にしては強い(物理的に)から何かあるんだろうなってあったーーー!からのこのつらさ。人格を変えなくちゃいけないから、感情の起伏も激しくて大変だろうな。

ラファエロは今回出てないけれど、ふと彼は孤独なのかなと考えた。『TRUMP』で父親のウルの秘密を守りきれなかったラファエロはダリに「この役立たずが」と言われる。確かに厳しい言葉だけれど、今ならこれがフリーダを失ったダリの実子の愛し方なのだ、紛れもなく父が我が子を叱っているのだと理解できる。でもそれと同時に、ラファエロが常に一人で戦い続けていたのだということにも気がついてしまう。ダリはフリーダが居た頃にはラファエロをめためた甘やかしてたと思う。それがフリーダを亡くし「ウル」というものを背負うと決めた時から、いずれは総てをラファエロに託そうと思って厳しくなったのかもしれないとか考えるとなんとも辛いものがある。一体ラファエロにとってウルを守ることはどんな意味があったのだろうか。父親に言われたから?家のため?それよりも自分自身の存在意義を直感的にウルの中に見ていたからなんじゃないかと思った。

  • ウルという概念

名前は生まれてから一番初めに与えられる呪い。そういえば『SPECTER』ではソフィが呪いをかけられていた。引き継がれる名前。もしかして、ソフィとウルの輪廻が元になっているのではないか。この世界の軸はヴァンプの祖であるTRUMPだと思っていたけど、概念としてもなお存在し続けるこの二つのたましいの物語なのではないか。TRUMPがこだわっていたのはアレンではなく、アレンの中にあるソフィで、そのソフィと強く結びつくウルの紡ぎ出す物語に執着しているのではないか。鶏と卵のよう話だけれど、ソフィとウルを中心に総てが回っていると考えた方が、納得できる部分が多い。

 

今日、二度目のグランギニョル。この目に焼き付けてくる。

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