取り留めもない

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劇団た組。第20回公演『誰にも知られず死ぬ朝』

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誰にも知られず死ぬ朝

あらすじ

歩美はここしばらく、年も取らず死んでは生き返りを繰り返し死ねず、長生きしています。

自分より早くに好きな人が死んでしまうので恋も愛も放っておいたのですが歩美は恋に落ち、やがて良嗣と結婚します。そんな良嗣は死ねない歩美の為に、一緒に死のうと歩美を殺す努力に精を入れています。

良嗣の兄・浩介と江梨香にはりっちゃんという子供が居まして、りっちゃんは子供だと思っていたらいつの間にか歩美よりも早くに子供を産みます。長く生きる歩美はどんどんと周りが年を取ってゆく、そんな様子には慣れていて幸せですが、やはり時々、例えば一人で朝起きてすぐ、好きな人とご飯を食べている時、誰かと手を繋いで眠る時に、幸せでも生きているだけで人間は寂しいと感じてしまいます。なので歩美は死ぬべきだと考え続けますがやはり死ねず、死のうと思いながらまた長く生きます。そんなお話です。 

第20回目公演『誰にも知られず死ぬ朝』 | 劇団た組。HP

感想

た組。の舞台を観るのはいつも藤原季節くんきっかけなのだけど、今回もそうだった。あらすじを読まずに行った。だから正直、この人の演劇に耐えられる状態かどうか不安だった。

aooaao.hatenablog.com

一つ前の『貴方なら生き残れるわ』は薄い感想しか残ってない。*1*2

https://aooaao.hatenablog.com/entry/2018/12/29/221941

以下、ネタバレです。

なんなんだこの家族クロニクル。最初はイキウメかモダンタイマーズ*3の新作かと思ったよ。っていうのは半分本気でイキウメやモダンタイマーズを好きな人は結構とっつきやすいと思う。一方で、人間関係の重なりとか、セリフのリアリティとかは加藤拓也だなってしみじみと思った。どの言葉も違和感なくすっと体の中に入ってきて、じんわり広がっていって、自分の血となり肉となるような感覚。最終的には自分のことのように苦しくなってしまう。今作だといつ誤解が解けるんだろう、はやく解ってほしいのにと思っていたのに上手くいかなくて…ほんっとに心が痛くなった。その前に十分泣いているにも関わらずだよ。

あらすじに書かれているようにメインとなっている事象は「死なない」人間の人生で、私は今までにもこのテーマに演劇の中でぶつかっては毎回苦しんでいる。*4普遍的な喜び、毎日好きな人と過ごして、いろんなことを経験して、一緒に年をとって、幸福の中で死んでいくことを手に入れられない。どんなに望んでも届かない。不死を望んで死んでいく人よりも、その望みを抱き続けることの方がどうやら何百、何万倍も辛いのだろう、と頭で解っていても考えだけではやっぱり他人事になってしまう。それを物語の中で一部我が事にして見つめることができるのは、やっぱり演劇の強みだなと思った。「誰も好きにならない」と誓っていた歩美より、良嗣を愛して苦しんで内臓を引きずり出した歩美の方が魅力的ではあるけれど、そんなのは観ている人間のエゴなのかもしれない。周りに愛する人がいる方が寂しいなんて。それは確かに愛を知ってしまったからだとは思うのだけど、歩美を愛した人たちはじゃあどうすればよかったんだろうって。今これを書いている時も思い出して泣いている。

村川絵梨は『獣の柱』でも観たからなんかイキウメっぽさが増しているんじゃないかなと思うんだけど途中から観ているうちにそんなことは忘れてた。彼女の演じる歩美は死なない人間という普通じゃない存在なのにあまりにも普通で、『天の敵』*5の卯太郎のように違和感はない。それが逆に不思議。そんなキャラクターだった。

安達祐実は一番最初13歳だったのだけど、全然違和感なかった。と同時に年をとって高校生を育てていることも違和感がなかった。すごい、さすが安達祐実

あと、藤原季節くん。安達祐実が演じるりっちゃんの子供の役なので、この家族クロニクルの後半にならないとほとんど出てこないのだけど、軽くてどうしようもない人間を演じさせたら右に出る者はない。そして、ハマらないピースが最後までハマらないと解った瞬間(もしかしたら助かるかもしれないけど)どうしたら良いか本当にわからないよ。今もずっと考えている。今がつまらないと言っていた彼が何も成さずに終わってしまったかと思うと、理不尽だし神様は不平等だなと歩美とともに思うのです。

公演は始まったばかりだし、まだチケットもありそうなので、埼玉のあの劇場に行っても良いよ!という方にはぜひ行っていただきたい。本当に。

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natalie.mu