取り留めもない

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PONKOTSU-BARON project『回転する夜』

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PONKOTSU-BARON project 第2弾 『回転する夜』

プロジェクトというからには課題と目標があるだろうと思って「PONKOTSU-BARON projectとは」で調べてみたんですけど、結局分からなかったので勝手に想像しました。そこで考えついたのが「2.5次元舞台(テニミュ)で見い出された役者たちが、今後の演劇界を担っていくことを目標としたプロジェクト」だったんですけど、もしそれがあながち間違っていないとしたら、それってDステみたいだな~と思いました。ということで、残念ながら安川純平くんは体調不良で降板となりましたが、初日あけてからのニュースやレポを見ているうちに行きたくなって、チケキャンで即落して行ってきました。

 

2007年、劇団モダンスイマーズで上演された『回転する夜』。恥ずかしながら演劇新規の私はこの劇団について知らなかったのですが、脚本の蓬莱竜太さんは映画『ピンクとグレー』の脚本を務めた方だということが分かって妙に納得しました。反芻する世界の見せ方の鮮やかさというところに共通点を感じます。そして演出の和田憲明さん。今までの経歴を見てみると、劇団EXILEの演出や脚本をやっていたということを知って俄然興味が出てきました。というのは半分冗談ですが、モダンタイマーズの時からそうなのか違うのかは分からないものの、音楽と映像そして演劇本体をちょうど良く配合されたハイブリット感が格好良かった。でもただ格好良いというだけでなく、人間の生々しさと、個の世界の閉塞感なんかが充満していて、息が詰まる思いをしながら、それでも舞台から目を放すことが出来ないというある種不思議な経験をしました。

 

STORY

とある田舎町。

海に面した丘の上に建つ豪華な一軒家。

兄夫婦と同居し2階の部屋で何不自由のない生活を送る、ひきこもりの青年ノボル。

ある夜、熱を出して寝込んでいるノボルの部屋に心配した義姉が現れる、と、全てを失ったあの一夜の記憶が夢の中で蘇る。

だがその記憶は、ノボル自身によって変容し、ノボルの「現在」と交錯していく。

現在と過去の狭間で、もがき続けるノボル。

終わらない夜の中で、ノボルはやがて思いもしない「真実」を知ることになる。

そして、その夜が明けた時・・

PONKOTSU-BARON project 第2弾 『回転する夜』

 ちょっと嫌悪感を覚える関係性というものがまず舞台上にあって、息を飲みました。ノボルはどうやらこの少し年上の青年たちにいじめられているのかと思うほど、遠慮のない言動の応酬。それが続けばボディーブローで地味にダメージを受ける感じ。でも、ノボルはノボルで傷ついているのかと思うとそうでもなく、それはある田舎町の日常で当たり前の世界なのだなということが分かってくると観客は少し安心します。でも、次のシーンでは自分がひきこもりになったのはあの日がきっかけだと決めつけていて、あの青年たちとのやりとりを夢で繰り返しながら過去を変えようとしているノボルを知ってしまうのです。まるで自分に都合の悪い夢などこの世にないと言わんばかりに。夢の中でのノボルの反芻は総て夢・幻の中での出来事と言ってしまうか、あのやりとりのいくつかは本当にあったことだと思うかで、少し観方も変わってくると思います。どちらにしても、幻の中の真実というか、総てが危うい世界の中でも唯一変わらないことが真実なのではないかと思いました。

閑話休題、かくいう私は北関東のある海の無い街で生まれて18歳までそこで暮らしていました。代わり映えのない毎日、一生続くと考えたら気が遠くなりそうに絡まった人間関係。そういうものが総て厭だったことを鮮明に思い出します。特に、実家は自営なのであのまま家にいたら家業を継がざるを得なかったのでそれから逃げ出したという経緯があります。でも、逃げ出す選択肢がない人もたくさんいた。進学できないからでもなく、家業があるからでもなく、自分が生きている半径3kmくらいの世界の外に何があるのか知らないから、何があるのか想像できないから、飛び出していくのが怖いからだというのが私の体感でした。自衛隊に行くというのも田舎あるある。親孝行な人がよく行く気がします。そうした自分自身の経験もあって、この作品の世界に引きこまれたのだと思います。

 

CAST

赤澤 燈(早山ノボル)

残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』でカネダをやっている姿を観たのが去年末。役としても作品としても間逆のような二作品ですね。ノボルは結局自分のことが見えていなかった。だから総ての原因を他人に見い出そうとしていた。そういう幼稚で煮え切らない人物が、赤澤 燈という人を通してそこにいました。自分が父親から選ばれなかったということを知った時、圧倒的な敗北を前にした彼の顔はまさにノボルといった感じでした。

西島顕人(早山サダオ)

夢を諦めて家業を継いだということを告白したことで今までのサダオの立場が反転する場面。そこにサダオの矜持というか、これを明らかにしてしまえばきっと自分が辿ってきた道を後悔するという強い念が客席へも伝わってきました。いつもはふてぶてしい風なのに、実は彼にもいろんなしがらみがあったと分かる瞬間の熱量がすごかった。

味方良介(佐竹アツシ)

 彼も『ライチ~』のダフ振り。あの舞台は役者の個性なんてほとんどないに等しかったので、生身の演技はこんな風なのかと。自分の頭がよくない、自分の出来ることは限られていると知っている(認める)人の潔さ。決して諦めではなく、落胆にも近い。だからこそ周りから慕われているのだけど、そうされることで落胆を深めていくような風にも見えました。自分に期待していないから無理をしない道を選んだのに、そこでも挫折する彼に、少しだけ私自身が重なってしまいました。

 

そして、本当であれば安川純平も西田キョウヘイ(ニッキ)として*1この舞台に立っていたのだと考えると 、悔しいし惜しい気がしました。彼のニッキ観てみたかった。*2次回に期待です。

 

戯曲の内容は下記URLより(ネタバレ)

今月の戯曲:蓬莱竜太『回転する夜』 | Performing Arts Network Japan

 

追記

遠藤雄弥主演で2012年にリーディング公演として再演されていたようです。安川純平の代役の逸見宣明さんはこの時の役者さんだったのか。

WALKING STAFF PRODUCE official web site

 追記2

それにしても客席が埋まってない。宣伝の力のなさなのか、それとも各人ファンのストプレに対する抵抗感なのか分かりませんけど、このプロジェクトを続けて欲しい者からすれば、埋まっていることは必須条件だと思うのでなんだかつらかったです。肌感でしかないけど、2.5次元舞台だったら複数回行ってたファンでもストプレだと一回だけとかありそうだから、必然的に来る人の絶対数を増やさなくてはいけないのだろうなと思った。がんばれ宣伝!

 

 

*1:当初のキャスティングとは大幅に変更されたとのこと。詳細は不明。

*2:同上