取り留めもない

映画や舞台の感想書いたり、たまに日記も

江戸川乱歩『孤島の鬼』の読書感想文

何故かこのタイミングで『孤島の鬼』にハマった友人から「読んでくれ、面白いから」という言葉を授かり、読みました。ちなみに、全く内容を知らないわけではなく、過去舞台で観ていたのでほんと朧げに内容は覚えていました。

話はそれるんですけど、これを読む前に家にあった『芋虫』読んでて、「これこれ、江戸川乱歩ってこんな感じだったわ」って感を取り戻すトレーニングをしました。

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そうでもしないと、最近の読書怠り人間はあの文章についていけなくなるので...この間読んだ津原泰水『ペニス』で死んだ時みたいな読後感になりかねないので...

ペニス (ハヤカワ文庫JA) | 泰水, 津原 |本 | 通販 | Amazon

まあ同じ江戸川乱歩でも『芋虫』と『孤島の鬼』だと天地の差ぐらい書かれ方が違うとは思うのですが実のところ。同時期になんか観た方がいいのではと思って観てた横溝正史悪霊島』の方が近かった。

Demons Island | Netflix

本題です。江戸川乱歩にしては話の筋を通そうとしている、推理小説風な作品なので読みやすかったです。内容知ってるって言ってたくせに、途中まで諸戸道夫が真犯人だと思ってたし、蔵に閉じ込められてた双子のこともすっかり忘れてました。すいません。そんな上手いことあるかよ〜っていう諸戸から箕浦への復讐劇の真実とその裏にあるもっと薄暗い復讐劇の二重構造が面白い。正直、物語のトリック的なところにはあんまり惹かれなくて(自分の嗜好的に)、文章の凝り方とか犯人のどうしようもなく捻くれた結果の数々の所行が乱歩だな〜と笑顔になりました。実際は『パノラマ島綺譚』*1の方が影響を受けているんだろうけど、谷崎潤一郎フリークな私は『金色の死』*2を思い出しながら読みました。ところで、横溝正史悪霊島』も同じように壊れた家族と愛憎に溢れてるのでみんなこのテーマ好きすぎん???

『孤島の鬼』について、乱歩はどこに主眼を置いて読んで欲しかったんだろうって考えてみるんだけど、割りと連載物のがちゃがちゃ感からしていろんな要素を盛り込みこんだんだろうなと推測できなくもないので、個人的に好きだったところを書きます。

まず自分が望まずして不具に生まれたことから、望んで不具者を作るのであるという悪魔的な考え方と、その徹底した世界観を作り上げたあの島の存在がやばすぎて好き。あんなに誰も憧れない理想郷もないわ。それも、母親の愛(実際は母性ではないけど)のために諸戸道夫という美しい男が育ってしまったことから綻びが生まれて崩れ去っていくディストピア。いっそ美しい。一方、愛のために行動して最後まで拒絶された諸戸道夫の哀しさよ。箕浦、髪が白髪になったぐらいで文句を言うな。結婚もできただろ。というのは冗談ですが、自分の運命に翻弄されまくりながら、とはいえそれとは無関係に死んでいった諸戸のことを考えるとつらい。というようなことを舞台を観た時にも思ってたらしく、私の思考は3年前から何も変わってないしこれからも変わらないんだろうなと思いました。

視点を変えて、あれも一つ丈五郎(諸戸道夫の父)の作り出した「美しい」不具者なのだろうなと考えると、乱歩はこの手の不幸をめちゃくちゃ愛しているんだなという思いになった。

わかる。(終)