取り留めもない

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砂岡事務所プロデュース『絵本合法衢』

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STORY

大名多賀百万石の分家にあたる左枝大学之助は、本家横領を企みお家の「重宝・霊亀の香炉」を盗み取る。
悪事を重ねる大学之助を諌めた本家の重臣高橋瀬左衛門をも騙し討ちにし、駆け付けた瀬左衛門の弟弥十郎にも平然と嘘を語り罪を逃れる。
しかし、大学之助の様子に弥十郎は兄の死に不審を抱く。
そんな折、ふとしたことで「霊亀の香炉」が、瀬左衛門の実弟・道具屋与兵衛の手に入る。
大学之助配下の太平次は、蛇遣いのうんざりお松の力を借りて香炉を奪い取ろうする。
しかし企みは失敗、太平次は毒酒で道具屋の女将を殺し金を奪い、さらにはつきまとうお松も煩わしくなり手にかける。
その後も次々と関わる者を手にかけてゆく大学之助と太平次、そして仇討を果たすべく追う弥十郎と与兵衛兄弟の行く末は・・・・。

砂岡事務所プロデュース『絵本合法衢』

REVIEW

あうるすぽっとは前回はブルーシャトルの『真田幸村』、今回は砂岡事務所の公演で来ているので、「劇団ひまわり御用達なんじゃ」と疑っている私です。というのは冗談でも『絵本合法衢』を観て『真田幸村』との近さを感じるというか、同じ血を分けたもの感があるなと思った。今回は鹿殺しの丸尾さんが演出なので、演出というよりも役者の演技の仕方なのか安定感があってテンポが良い会話と、ユーモアが感じられてじわじわい良いな~という気持ちが込み上げて最後には高揚感マックスに。なのにすぐに拍手をすることができないという最高な作品だった。

上に貼った動画に映っているけど、舞台上に化粧台が役者の人数分おいてあって、そこに役者たちが座って準備をし始めるところから、役になりきって出てくるところまでほとんど客席に見せてくる。まるでオペラのオーケストラピットのようで、これこそ「演劇体験」だと思った。詳しくはないけど、舞台上と観客の間には「第四の壁*1」というものがあってそのフィルターを通して物語を観ているらしい。観客に語り掛けはしないものの、演者たちは「演技を見られている」意識を持って、観客は「フィクションを観ている」と感じながら話が進んでいるのが面白いと思った。小道具や衣装も良かったな~。完全に忠実な時代物にせずに、基本的な着物や刀のようなものと外套やハットのみたいなその時代になかったものを組み合わせて違和感ないというのはすごいと思う。あとは、鹿殺しさんと言えば生バンドというイメージなのだけど、今回は電子ドラムをバキバキ叩きまくってる佐藤流司くんが最高だった(後述)し、デスボと不穏なストリングスが舞台全体の乱歩感を高めてた。

 物語としては大学之助と太平治という二人の悪人を中心に、二人に恨みのある弥十郎(合法)をはじめとする人たちが復讐を果たしていくお話。途中、同じ役者がいろんなキャラクターを演じているからこんがらがりそうになる。けど、大学之助と太平治と弥十郎だけ把握して入ればなんとかなる。問題は「どうしてそことそこも繋がってるの」という登場人物が多いということで、まあ追わなくても理解できるけど原作を読んでいけばもう少し楽しめたかなという感じ。そんなことほとんどしたことがないんだけど。分かりやすい時代劇の悪者みたいな大学之助より、女と金に振り回されてる太平治が好きだなあ。好きすぎて最後「死なないで」って自然と思ってた。すごい。

CAST

桑野晃輔(左枝大学之助・うんざりお松・孫七)

はじめましてこんにちは!な役者さん。個人的にツボな「汚い女装姿」に最上級のカタルシスを感じた。お松かわいい。憎めない。お松の時は全世界から愛されてもいいと思う。ちょいちょい出てくる関西弁のおかげで「ちょっと図々しくて優しい関西人」って感じだった。

 

鳥越裕貴(立場の太平次・多賀俊行・おわた)

生で観たのは初めてかな。オフィスシカプロデュースの『竹林の人々』が好きで何度も観てるけど、本当に良い役者さん。役者自身の色がはっきりしているのに邪魔しない以上に宛書のようにも感じる。

太平治は本当に人間らしい人だった。だからこそ悪人として生きるようになってしまった。女も金も手に入れてもまだ足りない。最期は満ち足りることのない欲求に呪い殺された。でもその最期に自分を恨んでいる女に切りかかられて「約束しただろ。俺はさみしいんだ」と言いながら、助けに入った人たちに「(人殺しじゃない。)心中じゃ」と叫ぶのが本心だとすると切ない。太平治は自分の悪をすべて受け入れてくれる人、もしくはそんな自分を止めてくれる人が必要だったのではないのかな~とまで考えて、答えがないから諦めた。

 

佐藤流司劇団ひまわり>(高橋弥十郎(合法)・魚屋五郎助)

この物語のタイトル『絵本合法衢』というところからもわかるように、主役というなら大学之助や太平治らよりも弥十郎(合法)。復讐に燃えて散る姿の美しさを理解できたので、演劇を観はじめて自分も成長したなと。役も役だから冒頭、電子ドラムバキバキ叩いてるところから、死ぬところまで始終かっこよかった。以前のインタビュー*2で「常にカッコつけていたいです」と言っていたのが印象的でこういうことかと合点。自分はこういうキャラクターに弱い。同インタビューのその他の内容を読んでいて、マジ恋に置いておくならまだいいけど、完璧主義者で潔癖な感じを「応援したい!」と思ったら最後、「彼の業に付き合いたい」ってなってたぶんそのうち死ぬんだろうなと思った。重すぎて命預けられそうだもの。だから第一級カケモ(掛け持ち)案件にしないといけない。

そんなことはおいておいて、もっともっと彼の演技が観たい。彼が一喜一憂する一挙手一投足を観たい。彼が隠しているという「素の自分」が透けて見える演技が観たい。そんな佐藤流司の俺期待度マックスな映像作品『Please Please Please』の公開はいつですか(ask)

 

ここまで書いてきて、俳優個々の演技もそうだけど、やっぱり演者・演出・脚本すべてのトータルとしてこの作品が好きだなと思うし、はやくDVDを手に入れたいし、出番を待っている間の役者たちを一人一人定点観測したい。そんな人のために5/31までDVDの受付をしているのでみんなご贔屓にね。

 

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