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漫画『コオリオニ』梶本レイカ

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STORY

 “ヤバい男達が組んだ”
鬼戸 圭輔(きど けいすけ)、何でもこなす男前な悪徳刑事 × 八敷 翔(やしき しょう)、美味しく貪欲なビッチのヤクザ

1990年代、北海道——…全国を震撼させる警察の不祥事が幕を開ける。

1990年代、警察庁は相次ぐ拳銃事件の対策として全国的な銃器摘発キャンペーンを始める。全国の警察は厳しいノルマを設けられ、それをこなす為に警察がヤクザと手を組むという点数稼ぎのデキレースが横行した。そんな中にエースと呼ばれる男・鬼戸圭輔(きど けいすけ)はいた。彼は何人もの犯罪者を情報提供者として飼い、北海道警察の中で一際多くの拳銃を"摘発"していった。そして彼は自分の運命である誠凛会(せいりんかい)の幹部・八敷 翔(やしき しょう)に出逢ってしまう。より大きい山を当てるために鬼戸は柏組(かしわぐみ)の武器庫に目を付け、八敷を潜入捜査に誘う。八敷は薬の密輸入を目溢しすることを条件に鬼戸と組む。二人は甘美な成功を期待して潜入捜査に乗り込むが——。男達が自らの欲望の果てに見た景色とはなんだったのか。息を吐かせぬ展開で描く渾身のサスペンスBL。

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 REVIEW

梶本レイカさんの作品は今までに『高3限定』『ミ・ディアブロ』を読んだことがある。『ミ・ディアブロ』は正直普通。『高3限定』は申し訳ないけど何を言っているのかわからないところがいくつかあって断念した。そして今回の『コオリオニ』。あらすじだけでも自分の好みと分かっていたけど、それが梶本さんの手にかかるとどうなるのか少し怖くて、でもとても楽しみだった。

 舞台は1990年代の北海道。悪徳刑事の鬼戸と美しいヤクザの八敷が出会って、ともに潜入捜査をすることから物語は始まる。この後は暴力とセックスと「オペラ」。狂人か悪人しかいない。梶本さんの作品は一気読みしないと読み切れないと思っていたけど、今回は読んでいて相当な体力を使うから一話読んで息を吐くしかないという。そもそもこれはBLなのかっていうか、BLというジャンルの広さを実感した。というのも、この物語を映画化したとしたら「ジャパニーズ・ノワール」なわけで、三池崇史の得意なタイプの物語だったから。まさに『新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争』『日本黒社会 LEY LINES』『漂流街 THE HAZARD CITY』の世界。 

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まだ観てないから断言はできないけど『BLUES HARP』は結構そんな感じ。

岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇」「中国の鳥人」の三池崇史監督による異色バイオレンス・アクション。沖縄生まれのハーフ・忠治は、必死に成り上がろうとしているヤクザ健二と出会い、不思議な友情を結びはじめる。しかし、健二は実はゲイで忠治に対して友情以上の恋心を抱き始めていた。そんな健二は、抗争の最中、危険な賭けにでていた。そして健二に降りかかった火の粉は、やがて忠治の身にも及びはじめる……。

解説・あらすじ - BLUES HARP - 作品 - Yahoo!映画

 監督は違うけど、もう少し綺麗で中華っぽい作品だったら『不夜城』も近い。どれにも当てはまる特徴は、善悪も敵味方も真偽も人種も差別も全部がごちゃまぜで、ただの暴力ならまだしも人体切断やレイプのような「生かして人間の人間たる部分を殺す辱め」のオンパレードであること。「こんなに必要なの?」と思う人もいるとは思うけど、それもこれもある種の「美学」に達するための装置だから必要要素。単体で「美」は存在できず、黒くおぞましい、汚い「醜」の中でこそ美しものが美しくあることができるし、そこに感動するんじゃないかなと。『コオリオニ』だとそれぞれの「愛」とそれを盛り上げる「オペラ」が美しい部分だなと思うけど、それにしてもこれがBLとはな。描写が苦手な人に合わせた結果だと思うけど、『Jの総て』と同じくジャンル分けがいろんな人に知られる可能性を奪うのは残念。誰にでもおすすめできるわけではないけど、それをわかったとしても人に勧めたくなるものってありません?そんな作品です。

キャラクターひとりひとりにいろんな思い入れを持っているけど、全く普通の人間=読者として一番感情移入していたのは佐伯さんかな。『コオリオニ』は視点が様々に代わって、それによって見えてくる世界が広くなる、というより見えていなかった部分の方が大きかったんだなと気づかされる展開の仕方で、上巻読んで疲れるのもこのせい。

(以下ネタバレ)

八敷から見れば、虐待されていたところから助け出して、一緒にヤクザ稼業のキャリアをスタートさせた兄貴分が佐伯さん。でも、ヤクザとしては中途半端でただのクズで、本当は八敷の非道なヤクザとしての素質で今までやってくることができていただけで、最終的には可愛がっていた八敷に殺されるのだけど、佐伯さん側からはまた少し違う世界が見える。佐伯さんは人の感情がわかる「普通の人間」だった。でも、彼らが生まれ育った町ではどうあがいても「普通の人間」は使われるだけ使われて、死んでいくだけだった。文字は書けなかったけれど、その代わりに読んでつけた哲学的思考があったことと、八敷と出会ってしまったことが佐伯さんの運の尽き。八敷がクズへの依存体質だと知っていたから、まずは自分なしではいられないようにするために自分からクズになった。そうして、父親の代わりに八敷の繭になって八敷が「生きたいように生きられる」ように彼の狂気を育てていった。彼の自由に生きていける「お城」を築いてやった。結果、八敷は立派なヤクザになり佐伯さんは必要がなくなった。「お城」に入れなくなってしまった。たぶん、その未来は早いうちに佐伯さんには見えていたんだと思う。それでも、八敷から離れることができなかったのは自分が「普通の人間」であると認めることができず、クズとして八敷といることが自分の存在価値だと信じていたから。ここまで極端なことは実世界で出くわさないけれど、例えば天才を前にしたときに、自分の存在の小ささに絶望したりもするけど、天才のできないことを補う自分というものを発見してそこに意味を見出してしまうことはありそうだなと。共依存というのはそういうことからも始まるんだろうな。

というようにいちいち感情移入したり、絶望したりして読んでしまうのでめちゃくちゃ疲れるのですがぜひに。でもちゃんとエロいのでお気を付けください。