STORY
『パラノイア★サーカス』―それは、孤島を本拠地とするサーカス団。見世物は極上の『謎』。奇妙奇天烈なパフォーマーたちは、謎に満ちた狂気と現実の境目を疾走する。稀代の大怪盗『カイジン20面相』がパラノイア★サーカスから“あるもの”を盗み出した。それは『謎』そのものだった。謎は世界から消え去り、世界は音を立てて崩れ去っていく...。
だが、そこに立ち上がる男がいた。ただ彼は観客だった。その観客は小説家に憧れ『物語』そのものを愛していた。彼は依頼を受け、謎のなくなった世界の『謎』を取り戻していく。消えかかる世界を守り抜くことができるのか?カイジン20面相の正体は?!パフォーマーたちの『パラノイア(妄想)』はステージの中で混ざり合い溶け合い、現代の狂気を映し出す壮大なパノラマへと姿を変える。
REVIEW
初・少年社中さんです。この劇団については、早稲田大学のサークルから出発していて、今回の脚本と演出の毛利亘宏はこの劇団つきの作家で、ミュージカル『薄桜鬼』や『メサイア』の脚本・演出だったり、スーパー戦隊の脚本書いたりと、ライトなエンタメを見せてくれるんだろうなというところまで想像していきました。結果、楽しかった!
物語は江戸川乱歩の作品の登場人物に扮したパフォーマーが乱歩の作品を模した演目を見せてくれるサーカスで起きる殺人事件をきっかけとして、その世界の真実が見えてくるといった内容。余談ですが、私のサーカスのイメージはPANIC! AT THE DISCOのライブ*1、中村明日美子の『コペルニクスの呼吸』、三池崇史の短編映画『BOX』*2で構成されています。どれもオススメですが、『パラノイア★サーカス』みで言うとP!ATDが一番近い気がしました。音楽と物語でたのしいみたいなところとか、何回か出てくるキャスパレすごい好き。ワックワクする。江戸川乱歩 meets サーカスってなったら見世物小屋っぽくなるのかと思ったらそこまでおどろおどろしいこともなく、一瞬の楽しさをたくさん提供してくれる場所としての「サーカス」がちゃんとそこにありました。
閑話休題、これからはネタバレします。「パラノイア(=妄想)サーカス」というだけあって、誰か(=主役)の妄想の中のサーカス団であり、このサーカス団を作りあげた人とその理由を解き明かすことが「謎を解くこと」な訳です。これだけ多くの登場人物がいて、ちゃんとした個性を残しながら事件を展開させて、ところどころで観客を笑わせて、物語を落としてというところまで一気に駆け抜けていくのがとても爽快だった。そこまで大きな謎解きという感じではないので、妄想設定だけ乗り越えればスーパー戦隊や仮面ライダーを見ていた子供たちにも分かりやすい物語だったなと。まぁ子供たちいなかったけど。そのかわりといえばいいのか、男性客やカップルが多かった。これはこの劇団の特徴なのか休日の池袋がなせる技なのか。物語に戻ると、屈託のない明るいファンタジーという感じもなかなか新鮮で、個人的な趣味もあるけどファンタジーといえばダークファンタジー派だったので「アレ、これはハピエン!?」となったのは確かです。江戸川乱歩のイメージに引きずられながら観たから、あんまり小説と物語に繋がりはないんだなと思ったけど、それっぽい台詞とか最高だなって思いました。それこそキャスパレのとことか、声に出して読みたい台詞のオンパレード。舞台美術や衣装の見てるだけで感じたわくわく感は、残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』と並ぶ感じ。ただ、もうちょっと音楽にオルガン感というかアコーディオン感あったら最高だったな。いつもの和田俊輔さんの有難み。
CAST
少年社中の方々
ざっくり分けてしまって申し訳ないのだが、如何せんキャラクターとイコールのイメージになってしまって…。的外れなのは重々承知で言うけど、女劇団員というのはなんていうかどこの劇団でも同じ業の背負い方をしてるなって感じで、もしかしたらそれをひとことで言い表わすとしたら「早稲女(ワセ女)」っぽさなのかなと。演劇を志した時にはサブカル女子なのに、劇団員を長く続けるうちに「プライド」と「負けん気の強さ」が育ってうんぬんみたいな。内状を知らないので完全に想像です。人について話を戻すと、この劇団のひとつの目標だったサンシャイン劇場での上演らしいので、劇団の節目の場に立ち会えてよかったなと思いました、勝手に。
小澤亮太(江戸川乱歩)
『ロボロボ』に続き二回目のおざりょ。滑舌が良いし、台詞が聞きやすい。二階席からありがとうだよ。『竹林の人々』でもそうだったけど、ダッダダダダダと言葉を続けるおざりょが最高にかっこ良かった。活弁士とかやってほしいな。ずっと聞いていたいおざりょの日本語。あと、苦悩する姿がとてもよく似合う。江戸川乱歩であることの苦悩。自分が誰だかわからなくなることの苦悩。そして、作家としての苦悩。おざりょ×文豪って死が近そうだし心中しかねない危うさがある。最高だ。最後のタキシード姿は地元の競艇場のマスコットキャラクター*3にそっくりだった。
松田凌(コバヤシ少年)
完璧に紛うことなく11歳の少年でした。サーカスの中で毎日毎日同じことの繰り返し、そんなのとても退屈でもう耐えられない、拳銃バンバーンまでが一セット。幼いというよりは大人になりたくないピーターパンという感じ。ところで「僕をここから連れ出して」って松田凌に言われて拒める人間なんているの?いないでしょ?逆になんで耐えられるの?という感じ。溌剌過ぎてこっちが穿ってしまう毒のある子供。大人になれない子供。実際にサーカスの中でしか生きることができない悲しみがクライマックスに凝縮されて、何度も何度も「誰に断って〜」を繰り返すところはぐっときた。あと、発声がすごい。遠くの山向こうまで届きそう。そして、短パン+白ハイソは圧倒的勝利です。最後にひとこと。「鉄板の死亡フラグでしたね!」
松田岳(ウチュウ飛行士)
サイトだと三番手に名前があるんだけど…という出演量。さほどおいしいポイントもなかった気がするのだけど、羊っぽい松田岳ってだけでまぁいいやってなる不思議。
白又敦(屋根ウラ)
今まで観た白又の中で一番かっこ良かった。というか、このファンタジーの中で「自然に可笑しな役」だったし、もう一方でめっちゃ普通の青年っぽいところもあったし、ひょろっとした体形も違和感なかった。あと、カテコで片足を引いてお辞儀してて、「めっちゃ紳士やん」と思った、というすごい馬鹿っぽい感想。
松本寛也(ナカムラ刑事)&唐橋充(ナミコシ警部)
お笑いコンビ。こんだけしゃしゃってるのに全然邪魔じゃないのはこの二人の魅力だなと。何度となく言われてることだと思うけど、唐橋さんって人の掴みどころのなさが最高ですよね。
吉井怜(黒トカゲ)
美しい。
鈴木勝吾(アルセーヌ・ルパン)
すっっっっごい通る声。二階席からありがとうだよ(二回目)。いろんな結果、一番の道化だったという。東映コラボっぽさでいうとおざりょの江戸川乱歩と立ち回りが何回かあるんだけどやっぱりかっこいいね。物理的に舞台が狭く見える。
ということで何も考えず見られて最後にちょっとホロっとする素敵なサーカスでした。実際にサーカス観たことある人なんてそんなに多くないだろうから、確かにこれが初のサーカス体験というか、サーカスと言えばで思い出すことになる人もいるんだろうな。さて、買ってきたユリイカ読んで『リチャード三世』観よう。