取り留めもない

映画や舞台の感想書いたり、たまに日記も

舞台『孤島の鬼―咲きにほふ花は炎のやうに―』

STORY

箕浦はまだ三十歳にも満たない青年だが、白髪のその容貌はまるで老爺のようであった。
黒髪が全て真っ白になった一夜。その恐怖の体験を、箕浦はひとり語り始める―――。
ある日自宅で最愛の恋人・初代が殺された。自宅の鍵は全てかけられており
侵入の痕跡は見当たらない。
箕浦は過去に自分に想いを寄せていた、学生時代の先輩である諸戸を疑う。
初代の復讐を誓って探偵業を営む友人・深山木を訪ねるが、
彼もまた白昼堂々怪死を遂げてしまった。
事実は箕浦の予想を遥かに上回る残酷さとおぞましさをもって彼らを巻き込んでいき・・・。

『孤島の鬼―咲きにほふ花は炎のやうに―』 | Nelke Planning / ネルケプランニング

REVIEW

原作は未読、2015年も未見。前作の評判を聞いて観に行った。

乱歩作品の奇っ怪なことを言ってそうで、実は勧善懲悪っぽいところと、悪に酔う雰囲気をあまり好ましいと思わないけど、『孤島の鬼』は「鬼は誰なのか」という命題を追求することに徹底し、人間の汚さをフォーカスしていて良かった。と、今さら私が江戸川乱歩について語っても仕方がないので、舞台作品としてどう見たかということを少しだけ。

去年は江戸川乱歩の没後50年ということで、『パラノイア★サーカス*1』など多くの乱歩作品が舞台化されてたけどそれは今年も続くようで。この他にも『お勢登場*2』なんかも上演されてますね。やっぱり人気がある作家はすごい。それに比べて谷崎潤一郎は、まあいいです。いやでもせっかくなので小話を。友人に昔「谷崎潤一郎はイカ臭い」と言われたことがあり、それを聞いた瞬間めちゃくちゃわかるってなって笑ったことがあるんですけど、そういう「っぽさ」で言うと、江戸川乱歩は「おばあちゃんの箪笥の中に入ってた香水の香り」というか、少し埃っぽいけれど、それを嗅ぐだけで並々ならぬ高揚感を感じられる気がします。

そんなところで、この『孤島の鬼』。美しい容貌を持つ青年、その青年を愛するお坊ちゃん、そして青年が愛する女性など分かりやすい登場人物がおり、殺人が起きる。それを語るのは「私」。まだ三十歳にも満たない青年だが、かつて「鬼」を見たことにより髪が真っ白になってしまったと語り出す。あくまで、私の話という物語なので、どちらかというと「私の語る理想の物語」に近く、まさにナルシシズムの中で悲劇を演じていた。意識的か無意識かはわからない。でも、そこには「こうであってほしい過去」が見え隠れする。私の物語の中で動き回る「箕浦」は私によって過去を暴かれ、哀しみを繰り返えさせられる。箕浦を愛する「諸戸」は、私の振る舞いによって何度も苦悩させられる。普通であれば、箕浦に暴力的とさえ思える愛情を抱える「諸戸」や、人間に対する憎しみを持った「丈五郎」が「鬼」と呼ばれるべきなのかもしれないが、実の意味で「私」が「鬼」の形のひとつのオム・ファタールとして存在する物語のように思えた。それをリアルにするためにも、叶わない想いに胸が張り裂けそうになる諸戸の苦しみをもっと切実に伝えてくれても良かったなと思う*3。それと、個人的には「私」には彼自身の美意識の中で生き続けて居てほしいので、最後の私の慟哭は、諸戸への後悔のように感じられて乱歩との解釈違いと思ったりもした。ただ、徹頭徹尾理想を実現するまでには至らないところが「私」というの人間の愚かさという感じもあったのでそれも良いかと思う。

「私」を演じた佐藤永典は美しく、銀に近い白髪も不思議と馴染んでいた。彼が話すたびあたりには妖しさが漂い、男性から親愛の情を向けられるのもわかる。一方で、石田隼の演じた「箕浦」は愚かではあるが人間としての純粋さが滲み出ていて、そんなところに諸戸は惹かれたのではないかと思うので、「私」の妖しさは彼自身が幾多の経験を経て手に入れた魅力なのだろう。先に書いたように「諸戸」に執着と狂気が自然ともっと馴染んでいるようだと良かったと感じるのは、「丈五郎」のようなまさに江戸川乱歩の世界の住人のもとで生きていた意味を考えてしまうからかなと。丈五郎を演じた河合龍之介は一種の形式美が感じられてとても良かった。全体的に活動弁士のような話し方をする人が多いから、それならより滑らかにそれが妥当であることを証明するように音を発したほうがなお良し。

演出で面白いなと思ったのは、舞台上に横断するように机がいくつか橋渡ししてあって、その上を歩いたり、下をくぐったりするところ。特に井戸の横穴のシーンでは、最近読んでいた洞窟閉じ込められ事件の記事*4を思い出してしんどくなった。生死がかかった極限状態でもすがらない高潔さということを表現したかったのかもしれないけど、この物語が「私」の語ったものである時点でそれも疑わしい。終演後も薄暗く陰鬱な舞台を見つめながらそう思った。

 

2016年に観た乱歩原作作品

aooaao.hatenablog.com

aooaao.hatenablog.com