取り留めもない

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舞台『K.テンペスト2017』

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作品情報

串田版シェイクスピア幻想音楽劇  記憶の嵐が巻き起こる

これは海で溺死したものたちの遥かな夢である。

海底に漂ったものたちの、懺悔に近い想いである。

砂となって海辺にうち上げられ、また引いていった骨のかけらたちの、悔恨と願いである。

われわれは、たとえ無自覚であっても、何万億の死者たちの聞こえない声に包まれている。

そして遠い未来の、ほとんど宇宙そのもののような命の根源の聞こえない声に導かれている。と、今この瞬間にしか生きていると自覚できないわれわれは、ぼんやり想う。

そして、音楽が生まれ、物語が生まれ、演劇が生まれる。

400年前のイングランドでも、そして現在でも。

K.テンペスト2017|KAAT 神奈川芸術劇場

REVIEW

私はウィリアム・シェイクスピアについて何も知らない。そのくせ「知っている」と言えるまでの道のりが途方もなく遠く思えて、一歩踏み出すことさえ尻込みをしている。なにより取っ付きにくい。もちろん戯曲を読む気合いもない。だからただただ不安だった。原作も読まず、あらすじもろくに知らず彼の世界に参加できるだろうかと。でもそんなのは杞憂だった。これはあまりに純粋な演劇体験。最後の拍手の意味まで想像された物語。音楽や照明は過不足なく、もちろん台詞にも無駄がない。全身で全部楽しんで気づいたら終わっている。すごい。そして演劇は決して高級な遊びではないと改めて思った。どこまでも人々に寄り添っていた。アナログなのに洗練されている。本当にすごい。

そして玉置玲央のその姿。贔屓目で言って彼の強靭な身体は輝いていた。あれを自分のものとして機能させたいと心から望んだ。上演中だけは成り代わって体験している気分になれた。つくづく自分は今まで俳優を観に舞台に通ってたんだなと自覚した。それが良いのか悪いのか誰に判断されることでもないけれど、少なくともこうして素晴らしい作品と出会うことができたのだ。しばらくはこのままでいたいと思う。