STORY
平安時代―
闇が闇として残っていた時代で、人々の何割かは、妖(あや)しのものの存在を確実に信じていた頃である。
遠境の森や山の奥ではなく、人も、鬼も、もののけも、同じ都の暗がりの中に、
時には同じ屋根の下に、息をひそめて一緒に棲んでいたのがこの時代である。
REVIEW
朗読劇というものは荒唐無稽な世界を表現することにこんなにも打ってつけなのかと、不思議なまでにそう思った。劇中の琵琶や古楽器の生演奏もなかなか聴くことができないものだし、世界観の表現には不可欠だった。この世のものではない何かが跋扈する、そんな世界で彼らとともに生きている人間と、人間なのかさえ妖しい安倍晴明。池田純矢は声の表現が巧みで、どんな声色を出させても違和感なく別のキャラクターを眼前に感じられる。「気味が悪い」安倍晴明に色気を与え、河原田巧也が演じる源博雅さえ彼の魅力に惹きつけられる。晴明も源博雅も自分たちの詳細を説明をすることなく、物語は妖しいものたちに焦点を当てる。観劇後は一冊の短編集を読み終わった感覚だった。夏が来たのだと思った。