取り留めもない

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映画『Please Please Please』

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STORY

ある地方都市に暮らすシンジ(佐藤流司)とナオ(佐藤永典)の兄弟。兄のシンジはデート詐欺で若い女を騙し、弟のナオは3人の仲間たちと架空請求詐欺を繰り返す毎日を過ごしていた。かつて2人は一緒に行動していたが、ある事が原因で仲違いし、今は互いに距離を取るようになっていた。シンジは若い女に甘い言葉を囁き、廃墟で待ち受ける仲間のアオイ(赤澤燈)のもとへ誘う。シンジに騙された女が、アオイから貴金属を買うというのが、詐欺の仕組みだった。一方、アジトにしている潰れた映画館で、詐欺の実行犯にさせようと、弱みを握った教師を取り囲むナオだったが、仲間の1人、ダイの裏切りが発覚する……。そんなある日、誰にも打ち明けずにミュージシャンを目指していたシンジは、音楽スタジオの男からデビューの話を持ちかけられる。そのためには、ある程度の金が必要だった。同じ頃、ナオは先輩から不思議な機械を売り捌くよう命じられる。金が必要なシンジと、不思議な機械を売れと命じられたナオ。2人は偶然、ある老婆の家で再会する。自分を詐欺の標的にしようとする兄弟に、親切にも大金を渡す老婆。大金を手にした兄弟はお互いの夢を叶えようと動き出すが、老婆の優しさに触れた2人には、わずかな良心が芽生えていた。同じ頃、以前シンジに騙されたアミが、兄弟やその仲間の事を嗅ぎまわっていた。それは、終わりの始まりでもあった……。

Please Please Please | 映画-Movie Walker

REVIEW

今、飛び立たんとする俳優たちの刹那と未来が一瞬で見えた気がした。

この瞬間でしか表現できない彼らの感情とその姿を、美しい映像の中に閉じ込めてくれたことが奇跡のような、そんな映画だった。環境映画と言われればそうかもしれない。感情の断片が、出来事の切れ端が、ぶつぶつと繋がっている。正直、「物語」としてはもっと上手くいっただろうという気持ちにならざるを得なかったけれど、それも総て今の彼らを映し出そうとした結果であれば仕方のない気さえする。それよりも重要なのは、彼らがその中でどう生きて、考えているかということ。それは説明的なモノローグではなくて、表情だけで表現すべきだったと思う。その力は十分にあったはず。そこが勿体なかった。

少年たちは青年に成長し、岐路に立つ。そこにあったのは己が「どうなりたいか」ではなく、「どうなれるか」という問題だった。ゴミ溜めに居たとしても、ゴミ溜めに居続けられるわけではない。同じように、皆を「馬鹿だ」と蔑んでいても、自らは底辺に存在し続けるしかないこともある。自分で未来を変えられるほど強い人は一握りの人間。常に誰かに、何かに影響され、思ってもみない方向に転がっていく。彼らがあの後どうなるのか、誰にもわからないけれど、その未来を作るのも、また自分ではない何かかもしれない。そんな風に考えさせる物語だった。

佐藤流司(シンジ)

かっこつけで、ナルシスト。一匹狼を気取っていても、結局は人に騙される。歌手になりたい、東京に行きたいというのも、誰かがそう言ったからとでも言わんばかりの他責性が最終的にはシンジを苦しめている気がした。女を騙すのも、男よりも弱いからと思っていそうで哀しい。

佐藤流司という俳優は舞台上でしか知らなかったけれど、なんていうかキメが多い。今回はそういうところもシンジらしいと思ったけれど、本当は素朴な男性、普通の人を演じさせるとより魅力的な気がするなと思った。

佐藤永典(ナオ)

弱虫な自分を隠したくて虚勢を張る。いっそ罪悪感に麻痺したいと考えるのに、そこまで堕ちる前に正気に戻ってしまう人なんじゃないかなと思った。ナオにはもっと「子供」である時間をあげたかった。たぶん、「はやく大人にならなきゃ」とか、「子供で居続けるのは悪だ」と思ってたに違いないから。

私は佐藤永典の演技がとても好きで、その中でも彼がどこか寂しそうに笑う瞬間に弱い。仮初の笑顔は、心をもっと寂しくさせる。『ガチバン』の川崎心愛の時もそう思った。彼の演技をもっと見たい。

赤澤燈(アオイ)

総ての鍵を握っているのに、自分の未来だけ変えることができない人。シンジやナオがそれぞれ何かしらを抱えているように、アオイも吐き出せない何かがあって、それが今回の結末を導き出した。突っ込んだ言い方をすれば、アオイはもう「手遅れな人」。最後にシンジやナオを突き放したことは、本当の意味では彼らを救うことになった。これからたった独りでつらいのはアオイなのだ。というように、アオイに一番思い入れをもってしまった。

赤澤燈があんな風に激昂して、汚い感情や哀しさを露わにする演技を初めてみた。しかもそれがとても美しかった。人間が人間らしくいることはこんなにも美しいのかと思ってしまうほどに。

 

本当にジョーカーを引き続けているのは誰なのだろう。

ゲームセットになったら彼らはどうなるのだろう。

頼むからこちらに来ないでと願っているのは誰なのだろ。

そう「今どんな気分? 」

 

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