取り留めもない

映画や舞台の感想書いたり、たまに日記も

小説『この闇と光』

 

 

 

この闇と光 (角川文庫)

この闇と光 (角川文庫)

 

 

 

 

 

少し前から叙述ミステリーが読みたくて、『殺戮にいたる病』とか読んでみたのだけど、なんだか違って、でも何が違うかよく分からなくて、なんとなく『七つの秘密』を観た後にふらっと立ち寄った紀伊国屋で見つけたこれ。この読後感をずっと探していたという感じでした。

 
幽閉された姫と王様のたどった道。十分に満ち足りた世界の中で生きることの弊害が、「美醜」のひとことで片付けられる説得力。美しいものだけを感じることができていたあの頃が懐かしく、今でも思い出される。この世界の総てを受け入れることができない自分に気がついてしまったから、ただ唯一のあの幸せな場所に戻りたい。誰が何を言おうとも。けっしてこれが真実でないとしても。そんなことは大して関係がない。自らが求めるものを作り上げるだけ。作り上げられた世界だけが自分自身の世界なのだから。今さら本当なんて必要ない。両親も同級生も、性別さえもどうでもいい。これはとても能動的な行動に思えて、実は意識ならざる意思によって突き動かされているのだから、受動的と言うべきなのだ。物語を紡ぐこと。歴史を作ること。それが彼の人生なのだから。