取り留めもない

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残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』

圧倒的なライチイヤー(LDHでいうパーフェクトイヤー)を感じて残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』を観てきました。

 

残酷歌劇について

原作は東京グランギニョルが1985年と1986年に上演した『ライチ光クラブ』。それを古屋兎丸が漫画化しエロティクスエフ(太田出版)で連載した作品が『ライチ☆光クラブ』(2006年)。2012年と2013年に江本純子の脚本&演出、木村了主演でストレートプレイとして上演された。そして今回は演出は河原雅彦、脚本 丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)で「残酷歌劇」として舞台化された。原作が元々舞台で~とか、2012年&2013年版が好評で~とかそういうことは私が説明するまでもないかなと思うのと、前回舞台を当時はもちろんDVDでも観ていないので省略する。
 
漫画『ライチ☆光クラブ』は読んでいたし、世界観はすごく好き。ただ、後述もするけど、「ゴシックの美学」として追求された物語ではないし、むしろ耽美とかそういった雰囲気をギャグっぽく昇華している作品だなという印象をもっていた。*1それでもこういう世界を、自分以外がどうやって受け入れて昇華していくのかということにとても興味があるから「残酷歌劇」でもなんでもみてみようと思ったのがきっかけだった。
 

実際、最高だった。漫画の耽美な世界や儚い少年たちを忠実に表現するのではなく、「なぜ舞台化するのか?それもなぜミュージカルなのか?」ということを演技、歌、音楽、ダンス、舞台美術の総てをもって知らしめる作品になっていた。演出の河原雅彦曰く、『ライチを演劇にする』ではなく、『演劇がライチをやる』*2というテーマがあったというが、本当にそうだと思った。制作側にも役者側にもその意識をしっかりと合わせたうえで作っているんだろうなという感じ。そもそも、「これでミュージカルってどうなのよ」というところから、「え、ダンスは東京ゲゲゲイ?」「脚本は丸尾丸一郎?」となってからの安心感と、それと比例した期待値の高まりが心配になるほどだったにも関わらず、裏切られなさ過ぎて動揺した。正直、あんなダンスを本職役者の人たちがやってるのか~と思うと感動さえした。他に観たことがあるミュージカルが『LILIUM』だけだから歌と演劇のコラボレーションはこういうものなのかと思ってるんだけど、『LILIUM』も『ライチ☆光クラブ』も音楽担当が一緒だったんで、そりゃ似てるよな。全然関係ないけど、始まる前に会場でかかってた曲がSkrillexとGD&CLのDirty Vibeだったし、カルチャーごちゃまぜのお金がかかった上等な「見世物小屋」だった。

 

全体的に耽美的世界というより、幼さゆえの盲目的な“神(=ゼラ)”への信心や陶酔、狂気がフォーカスされていたと思う。ゼラが主役なわけだけど、途中からタミヤ中心で進んでいくし、元々のリーダーもタミヤであって、ゼラはタミヤへの羨望をずっと抱えてる。頭脳や実力とは別の人間的な魅力みたいなものを持っているタミヤのことを手下のようにして使うことでやっと自分を保っていたんだろうなと。なんにもしない、むしろ何をするか分からないジャイボを自分の一番近くに置いていたのも、それはジャイボがゼラ意外に興味を持っていなかったから、つまりタミヤよりゼラに価値を見いだしていたからということが大きな理由なんじゃないかなと。それがゼラを裏切るか否かとはイコールになっていないことがこの物語の落とし穴。少年たちの帝王であるゼラでさえそこまで考えることが出来ない少年だったということが哀しいところ。

 

役者について

ゼラ(中村倫也

漫画のゼラその人。ここまで私の中のゼラと似るものかと驚いた。ゼラの他と同じならざるところは、潔癖症の極みのような精神性。それこそ厨二病。論理的なのに時に幼いもの言いがとてもリアルだった~。いままで中村倫也くんのことを知る機会が殆どなかったから、ここ最近の宣伝のためのインタビューを読んで知ったところで言うと、結構こじれた人のようだから的役だったということか。まぁなんにせよ、見た目が最高にゼラだった。
 
タミヤ(玉置玲央)
柿食う客というものは知っていたんだけど、簡単に手を出しにくいな~と思ってて、そんな人が「まさかライチに!?」という印象だった。それでもって観て、特に最後のゼラとの一騎打ちの場面で水に打たれて、歌いながらやり合っている時の迫力がすごかった(素)
 
ジャイボ(吉川純広
前回の舞台でジャイボを演じていた玉城裕規が好きなので、ちょっと穿っていたのだけど、ゼラと絡んでいる場面は本当にネコのようで所作はもとより、存在がえっちい。ぱっとみた印象すごくクズっぽい役者ばっかりいるカンパニーだと思ってるのだけど、その代表なんじゃないかな(暴言)
 
本当に癒しでしたね!!!池ピー、嗚呼、池ピー…1カ月前まで『夕陽伝』で毘流古やってたなんて信じられない。「どいて男子!」のくだりとか、本当にウザめな中学女子だった。本当にね、ナチュラル気グルなので大好き。
 
あとは、申し訳ないんだけどそこまで何かを言える感じで覚えてなくて、ただ少し思ったのは、確かにこの舞台をこの舞台にしたらしめるのはこの役者たちである必要があったんだと思うんだけど、物語の内容的に「若手俳優」の儚さとリンクさせると面白いのかもしれないな~なんて思った。というのも、「美しい僕らの輝きを永遠のものにしたい」けれど出来ないという屈折はきっとこの役者の苦悩ではないから。まぁでもそれではこの完成度には至らないのか(ループ)
 

ライチ☆光クラブについて

前にも書いたけど、『ライチ☆光クラブ』にはゴシック的な精神を伝えようという意思はあまりないと思っている。ここでいうゴシック的な精神は以下。

 

物心ついた頃から怪奇なもの怖いもの暗がりにあるものが気になって仕方なかった。夜とか墓場とかお化けとか怪談とか、そうした想像が興味の大半を占めていた。

集団生活と共同作業が苦手だった。幸い今のところ徴兵制はないからよいが軍隊に入れられたら耐えられないだろうとよく考える。

平穏が続くというのが信じられない。いつも死のイメージばかり考えていた。

死は膜一枚で隔てられているだけと思っていた。今もそう思っている。

ダークな感じ、陰惨なもの、残酷な物語・絵・写真を好む。

ホラーノヴェルもホラー映画も好きだ。

時代遅れと言われても耽美主義である。いつもサイボーグを夢見ている。肉体の束縛を超えたい。
両性具有、天使、悪魔、等、多くは西洋由来の神秘なイメージを愛する。

金もないのに贅沢好み。少女趣味。猟奇趣味。廃墟好き。退廃趣味。だが逆の無垢なものにも惹かれる。

情緒でもたれあう関係を嫌う。はにかみのない意識を嫌う。顔を合わせれば愚痴を言い合い、ハードルをより低くして何でも共有してしまおうとする関係を見るたび、決して加わりたくないと思えてしまう。自らの個の脆弱さは身に滲みて知っているつもりだが、だからこそ、最初から最低レヴェルで弱さを見せ合い嘆き合おうという志の低さが気に入らない。

欲望そのものはよいとしても野卑で凡庸な欲望の発露を厭う。主に性に関する場合が多いのだが、「不倫」だの「結婚願望」だの「恋の駆け引き」だのといった予断に満ちた語は性の形をひたすらありきたりに陰影なく規格化していて腹立たしい。いくらでも異様な発露を見せうるはずのことを常に決まりきった形で安く語る言葉が嫌悪されてならない。

自信満々の人が厭だ。弱者だからと居直る人も厭だ。「それが当たり前なんだから皆に合わせておけ」と言われると怒る。はじめから正統とされているものにはなんとなく疑いを感じる。現状の制度というのが決定的な場面では自分の味方でないように思える。いつも孤立無援の気がする。

気弱のくせに高慢。社会にあるどんな役割も自分には相応しくない気がする。

毎朝、起きると、また自分だ、と厭になる。自分ではないものに変身したい。それは夜に生きる魔物であればよい。

そこに善悪は問題でない。美しく残酷なこと。きりきりと鋭く、眠るように甘いもの。ときにパンク、ときにシュルレアリスティック、またときに崇高な、暗い魅惑に輝くそれがゴシックの世界であると私は信じている。

 

高原英理『ゴシックスピリット』

ゴシックスピリット

ゴシックスピリット

 

 

これに近いものは確かにゼラの中にあるけれど、もしこの精神を貫けたのであれば、ゼラは本当に世界をその手におさめることもできたはず。でも実際はそうじゃない。ただあるのは、人間の本性を映し出す時に適した世界。だからひとりひとりのキャラクターについてもそこまで魅力的に感じることはなかった。でも今回、『演劇がライチをやる』というものを観て、「舞台化の意味」をまざまざと感じたというか、生身の人間が役や世界を噛み砕いて昇華して、再生成したものの魅力を感じてすごいなと。今この一瞬を生きてるんだという作品と向き合う体験ができたのはなによりも素晴らしいことだった。

 

来年は『ライチ☆光クラブ』の映画が公開されるんだけど、正直この舞台を受けてどれだけ楽しめるかなと思ってる。いや、ある程度のものは想像できるけど、ゼラチンペーパーのように一瞬だけ燃えて消えていった少年たちを目の前で観た後に、さすがに映画という媒体じゃ物足りない気がするんだよね。とにかくまぁ、池田純矢がニコなので楽しみにはしてるんだけど。

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*1:前回舞台はギャグベースとのこと

*2:パンフレットより