イキウメ『天の敵』

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STORY

ジャーナリストの寺泊 満(安井順平)は、菜食の人気料理家、橋本和夫(浜田信也)に取材を申し込む。きっかけは妻の優子(太田緑ロランス)だった。寺泊は難病を抱えており、優子は彼の為に橋本が提唱する食餌療法を学んでいた。当の寺泊は健康志向とは真逆の人間だが、薬害や健康食品詐欺、疑似科学や偽医療の取材経験も多く興味があった。優子がのめり込む橋本を調べていく内に、戦前に食餌療法を提唱していた長谷川卯太郎(松澤 傑)という医師を知る。寺泊は長谷川と橋本の容姿がよく似ていたことに興味を持ち、ある仮説を立てて取材に望んだ。寺泊は、プロフィールに謎の多い橋本は長谷川卯太郎の孫で、菜食のルーツはそこにあると考えた。橋本はそれを聞いて否定した。実は橋本は偽名で、自分は長谷川卯太郎本人だと言う。橋本の片腕・料理家の五味沢 恵(小野ゆり子)。卯太郎の先輩医師・糸魚川典明(有川マコト)。糸魚川の孫の弘明(盛 隆二)と佐和子(村岡希美)夫妻。卯太郎の友人・玉田欣司(大窪人衛)。食の求道者・時枝 悟(森下 創)。以上の登場人物でお送りいたします。

 イキウメWeb

REVIEW 

凄まじい物語だった。それはもう圧倒的な。モノガタリだった。これほどまでに、物語るという行為を意識したのは、『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』*1を観ていたからかもしれない。いや、本当に物凄いものがたりだった。

高等な絵本のようだ。

どの台詞にもどの登場人物にも無駄がない、いや実際は無駄なところばかりある。なのに、それこそが人間の生活なのだから無駄などではないのだと、自分に言い聞かせてしまうような超現実感。イキウメのサイエンス・フィクション(SF)はなぜもこんなに現実感を孕むのか。

嗚呼、愛おしや。

なんでこんな文章になってしまうのか、自分でもわからないほどには毒されている。ゼロから世界が立ち上がっていく瞬間はそれはもう格別なんじゃないだろうかとさえ思う。羨ましい。美しい。何をとっても輝いている。舞台美術も素敵だった。

 これ2015年の『孤島の鬼』のセットを思い出した。

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突飛な内容だが、だからといってとても物珍しい話という訳ではない。最近だと岩井俊二の『ヴァンパイア』なんかがよく似た手触りだと思う。『天の敵』はコメディ色もあるけれど、120歳の卯太郎も主人公の寺泊も誰かに愛されてあの場所までたどり着いた。物語の最後、冷蔵庫の中を確かめた寺泊も、彼を抱きしめた寺泊の奥さんも、覚悟しなくてはいけない瞬間が遠くない未来に待っている。それでも「だいじょうぶ」と優しく伝える女性は強い。

生きることを選択するという行為が『太陽』にもあったけれど、それがかならずしも善と描かれないことにハッとさせられる。天の敵。この世の摂理に反するもの。それは人が生きて死ぬという当たり前のサイクルを破壊するもの。でも本当に死から逃れた時、その存在はすでに自然から排除され敵として天と対峙することもないのではないかと思わずにはいられなかった。

アフタートークで大窪人衛くんが次回の公演作にと提案して演出・脚本の前川さんと基本合意をした「任侠SF」が観たいです。