自分しか演じられなくなったとき

私が若手俳優、そして演劇の世界を知るきっかけ*1となった人が、事務所を辞めて芸能界を去った。その最後は案外さっぱりしたものだったし、こちらも思ってたよりは平気だった。まだ今は。

彼はいろんな可能性を持った人だったから、俳優や芸能活動以外にもうまくやっていけると思う。随筆家*2なんて、割とあるかなと。ただ、私は彼の演技をする姿が好きだったし、番組や雑誌で仲間たちと「ありきたりではない」やりとりをするのを見るのが好きだった。彼は「男子校のノリが嫌いだ」と言っていたけれど、そんな彼を受け入れてくれる同性の仲間たちがいるのも希望を感じた。趣味嗜好もキャラクターも違うのに、推しと程よい距離をもって信頼関係を築いているのも微笑ましかった。

同じ事務所にいた別の人の話だけれど、「どんな役を演じても、自分になった」というような理由で俳優業を辞めた人がいた。そのことを知った時、あまり驚かなかったし、「そうだろうな」と思った。でも、そういう理由で辞めることもあるんだなあとは思った。

私は今回の彼の演技がとても好きだったけれど、それ以上に彼の存在が有難かった。そういうことで言えば、あまり「役者である」という意識は他の人に比べると薄かったのかもしれない。人としてのキャラクターが強いというのはそういうことだ。本当はどういう人なのかというパーソナルなことをそこまで知る必要がないし、その時々の演じ方を見て魅力を感じれば基本は成り立つのが役者だ。そういう意味で、彼はもう自分以外の何かを演じることに興味がなくなったんじゃないかなと邪推している。だって正直、私は彼の演技が見られなくなるのは嫌だから*3。だから、何かしら理由を見つけ、彼が「役者」でないことを納得しなければならない。

もっともっといろんな勉強をして、いろんな人と出会って、いろんな世界を見てきたときに彼が何を選択するのか。きっと私たちの前にまた姿を現してくれるんじゃないかと少しだけ期待している。

   

*1:総てのはじまりはこのイベントで自由な姿を見て衝撃を受けたときから。

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*2:評論家は今のところあまり向いてないと思う。

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*3:一番好きな作品。彼のリューベンは美しく苦悩に満ちていた。

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