取り留めもない

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MYSTERIOUS SKIN/謎めいた肌

 世界は少年たちに残酷だ── 父親の不在 性的虐待 売春…この虚無感はだれのせい?

美少年ニール、8歳。男の唇が唇に重ねられたとき確かに愛の至福をみた。しかし、同じ体験がブライアンの弱い心を押しつぶした。カンザスの田舎町で、小児性愛者に性的いたずらをされても、親も気づかない、声も発せない──やがてニールは、男の影を求めて憑かれたように売春を重ね、ブライアンは人を拒み、心を閉ざした。歪な過去の呪縛から逃げられない、ふたりの少年たち……。

ハーパーコリンズ オフィシャルサイト/ハーパーBOOKS(文庫) 謎めいた肌|ハーパーコリンズ

謎めいた肌 (ハーパーBOOKS)

謎めいた肌 (ハーパーBOOKS)

  • 作者: スコットハイム,仔犬養ジン
  • 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
  • 発売日: 2016/03/17
  • メディア: 文庫
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ふらっと立ち寄った本屋でこの本を見つけた。この手の作品を読んだり、見たりする機会は多い方。何故なのか本当のところは自分でもはっきりとは言えないけれど、壮絶な境遇と素晴らしい才能のはざまで自由に生きている(ように見える)人たちの物語が好きなんだと思う。

物語は二人の少年が幼いころに抱えた秘密を中心に進む。片方は愛おしい思い出として、もう一人は思い出せないトラウマとして、その秘密は彼らの人生を操っていく。最後への一連の流れは、とても自然で、静かで落ち着いていた。劇的になにかが変わるわけではない。でも、今まで悪夢にうなされていた少年が、違う夢をみられるようになるかもしれない。秘密を宝石のように大切にしていた少年が、あれは自身を蝕むウランの原石だったと気付けるかもしれない。でも、それはまだまだ先の話かもしれない。とにかく、少年時代に止まってしまっていた一つの記憶が動き出し、自分たちは今を一生懸命に生きなくてはいけない「人間」なのだと自認した。それがこの物語の最後。

この作品は、インディペンデントではあるけれど、映画化されている。主役の美少年ニールは『(500)日のサマー』『インセプション』『ダークナイト ライジング』などのジョゼフ・ゴードン=レヴィット。彼が素晴らしい演技をしている。

 ちなみに某動画サイトでも見られるので、詳しくはこちらから。本を読んでから映画を見たけれど、内容に齟齬がなく忠実なうえに、表現力が増していた。本に書かれている詳細は、端折れるところもままあるなと感じた*1ので、時間がなければ映画だけでも観てほしい。アップしてくださった方の翻訳も素晴らしい。

ニールは秘密を経て、彼の生きる道を見つけたように見えたけれど、カンザスの田舎町を出て、ニューヨークで暮らしてみて、初めて自分の選んだ道に迷いを感じている。倫理的にという問題ではなく、生きることができる人生なのか。そこが問題になってくる。一方のブライアンは、記憶に蓋をして真っ暗な中を生きてきた。そうしてやっと目を開ける時が来たというところ。単純に、子供の頃の出来事が悪だ、そのせいですべておかしくなってしまったと言ってしまえばそれまでだけれど、そこを経て生きる人たちの生き方を見て、「ない方がよかった」とも言えない自分もいる。なぜなら、ニールもブライアンもとても人間臭く、魅力的な人間で、それを形作ったのは、彼らに起きたすべてのことなのだから。

 

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*1:小説の翻訳も読みやすく、気持ち悪い表現もほとんどなかったのでおすすめ。訳者の仔犬養ジンさんはイラストも描いていらっしゃいます。「ジン (仔犬養ジン)」のプロフィール [pixiv]