劇団Patch『巌窟少年』

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劇団Patchの第二回公演作品。旗揚げ作品のコミカルなオリバーボーイズから一転、シリアスな会話劇を演技の技量のない彼らが演じることに対して、公演当時はあまり評判がよくなかったらしい。一方で、TRUMPシリーズをはじめとする、末満作品を愛する人たちからは人気が高く、ネットでも品切れ状態が続いていた。

STORY

魔女狩りの時代、迫害された魔女たちの棲み家だったとウワサされる"巌窟(がんくつ)”と呼ばれる洞窟内の住居区。そこで共同生活をすることになった"ワケあり”少年たち。彼らは衝突し、融和し、誓い、裏切り合いながら時を共にする。そして、閉ざされた青春のひと時は、穏やかに崩壊していく・・・。

REVIEW 

 

この末満さんの言葉がしっくりくる。というか、そうであるということが前提にあると変なフィルターをかけることなく観られる。拠り所のない少年たちが集い、団結し、崩壊していく世界。そこに末満さんの思考の髄が加わり、少年ひとりひとりの恣意と不意が描かれる。それぞれがそれぞれの想いを抱いて生きていることを実感させられる。言葉に感情を乗せる演技になれていないPatchがこの作品に向かうことに何か思うことはあっても、それが確かに彼らを成長させたのだと今になってみてわかる。実際、この作品を契機に演技に向かう気持ちにスイッチが入ったメンバーもいるという話も聞いた。D2が『TRUMP』で苦悩したように、Patchも『巌窟少年』で苦悩したはず。キャラクターのバックボーンがもっと掘り下げられていればと思うところもいくつかあるけれど、役を生きるごとく思い悩む姿を見て感じられたことも良かったと思う。

 

CHARACTER & CAST

トーリ/マルセル(村川剄剛)

強い意志でみんなを導き、羨望を受ける存在でありながら、実はコンプレックスの塊で歪んだ魂を持っている人物。政治家で権力者である父、優秀な兄に囲まれ自分ひとりだけ何もできないと周囲に蔑まれ、家出した。かつての自分を捨てて、巌窟ではトーリが望む理想の人物を演じるている。煽情的ではあるが、決してすこぶる頭が良かったというわけではなかったと思う。飼い犬の名前を少年たちに与えたのも、彼らを手中に置くためというより、大切に思うものを同一視していたからというのが本当のところだと思う。胡散臭いしゃべり方は憎くて愛しい父親や兄を真似たもののような気もする。そうすればみんなが自分についてくると安心できたからそうしていたんだろう。でも、本当のトーリは巌窟に来たばかりの怯える少年のままだった。トーリがリーダーとなり、巌窟の法となることを半ばガフが受け入れていたのも、この点を理解していたから。優しくされたことのなかったトーリにとって初めて自分を受け入れてくれたガフは特別な存在。ガフが巌窟を自由の国と言ったからこそトーリは国であることにこだわった。他の誰に認められても満足しない。ただガフに認めてほしかった。物語が進むにつれて狂気を増したのはガフとの隔絶を確信したから。一番わかり合いたい人とわかり合えないという嘆きが聞こえてくるようだった。

 

ガフ/フランツ(竹下健人)

巌窟はやっとみつけた彼が帰れる家。エンゾが総ての黒幕でトーリの暴走を助長していることも知ったうえで、そこから逃げ出さずただもがき続ける。彼自身が変化していく人間よりも永遠に変わらない場所を大切にしたからこそ、そのたった一つの唯一の場所を守るために最期は死んでいった。そこに後悔はないのではないかと思う。なるべくしてなったこと。寿命を全うした。最期にガフはルルに託した。自分ができなかった大人の人生を託した。ガフはドリームキャッチャーを身に着け、巌窟少年たちを悪夢から守っていた。だからこそ彼がいなくなった途端、少年たちは崩壊という悪夢に襲われてしまう。

 

エンゾ(中山義紘)

最も自らの意志をもって巌窟を創造した人物。鍵となる少年。巌窟に少年たちを集めてきたのもエンゾトーリをリーダーに担ぎ上げて責任を押し付けたのもエンゾ。ゴンサンという忠実な手足や演説家のトーリを使い自分だけの楽園を作ろうとした。そうしたのにはもしかしたら彼の趣味嗜好や一種のコンプレックスが根底にあるのかもしれない。仲間たちが見放す特異な自分を受け入れてくれる世界がほしかった。ただそれだけだった。壊すつもりははじめからなく、マシマシを撃った時もただ一心に巌窟を守りたいという思いがそうさせた。狂気をはらんで手に負えなくなったトーリを前にして、彼はただ立ちすくむ。ガフと共にはじめて、トーリと共に大きくした夢の崩壊が彼に突き付けられる。

 

マシマシ(岩崎真吾)

巌窟の魔女の声を聞き、少年たちをトーリの「力」とは違う「光」で少年たちを方法で導いていた人物。マシマシの言動そのものが巌窟の状況を象徴していたように思える。マシマシがいなくなってからは巌窟に光は届かない。悪夢と闇が巌窟に襲い掛かる。

 

ルル/フランツ(井上拓哉)

ガフに対して自らが殺した父親の雰囲気を感じている人物。抑圧的な父親から解放され、少年たちだけの巌窟にたどり着き、このままここでずっと生きていければいいのにと願った。けれど、ガフの死を経て大人になることを実感し、自分たちの未来を生きるためには巌窟から出ていく必要があると知った。総てガフに教えられた。巌窟の最後、大声をあげて笑うルルにトーリは「なんで笑っているんだ」と叫ぶ。ルルが笑顔になることを望んでいたのはトーリその人だったのに。

 

ゴンサン(星璃)

裏社会でギャングの小間使いをしていたゴンサン。その昔は到底人間の生活とは似ても似つかない悲惨な生活だったことが想像される。そこから救い出してくれたエンゾに対して全幅の信頼をおいている。エンゾが少しでも生きやすいように。そしてゴンサンとエンゾの二人で生きていけるように。そのためだけに尽力していた。自分たちの行為の善悪は放置しても、自分たちの前に立ちふさがるものは許さない。純粋にエンゾと自分のことを考えた末の結末がエンゾが作った世界の崩壊ということになってしまった。

 

思い入れ的にはトーリなんだけど、エンゾの物語の方がきっと深くて暗い。巌窟に来たばかりのエンゾを知るのはガフだけ。エンゾからみんなが離れていく理由を知るのもガフだけ。トーリが盾となって結果的にエンゾを守ってたというのもつらい。ゴンサンが自分の存在理由を確かめられるのは、エンゾに利用されているときだけ。トーリは大人になることを意識していなかったと思うけど、エンゾはどうだろう。大人のせいで不幸になったと信じているエンゾは、大人になれるのだろうか。ルルを除く巌窟を追放された少年たちのその後は描かれていない。

 

巌窟は魔女を閉じ込める檻。

だから魔女は巌窟が終わることを望んでいた。

そうしてある時、魔女が笑った。

その時、巌窟は終わりを迎える。