舞台『オーファンズ』

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orphans.westage.jp

STORY

アメリカ・フィラデルフィアにある老朽化した長屋。そこが彼らの居場所だった。

誰も知らない、閉ざされた世界に暮らす兄弟、利発ながら凶暴的なトリート(柳下大)と天真爛漫なフィリップ(平埜生成)。

親のいない二人は、トリートの盗みで日々の生計を立てていた。

ある日、トリートはバーでハロルド(高橋和也)と出会う。金持ちと思い込み家に監禁、誘拐を目論むが、ハロルドは意に介さず、トリートに自分の仕事を手伝うように持ちかける。

奇妙な共同生活の中で二人に富と理性、教養とともに、生きる道を教えていくハロルド。家から出ようとしなかったフィリップは自分が住む世界を知り、トリートは人との繋がりを感じるようになる。

大きな孤独と小さな温もりを分かち合う三人の孤児たち(オーファンズ)に訪れる、思いもよらない結末とは・・・

イントロダクション/ストーリー | オーファンズ -Orphans - |2016年2月上演|ワタナベエンターテインメント

 

REVIEW

 無骨で純粋な成長譚でした。暴力的で不器用な兄トリート、純粋だけど学の無いフィリップ。そんな二人に昔の自らを重ねて無償の愛情を注ぎ教育するハロルド。トリートに対しては厳格な父親のように、フィリップに対してはまさにヘレンケラーの師であるサリバン先生のようにハロルドは接しました。フィリップについては戯曲『ピグマリオン』よろしく、最後はあの三人で暮らした家を出て行ってしまうのかと邪推しましたが、孤独を分けあった兄弟の愛は深いもので、今までは守られる側だったフィリップが壊れてしまいそうな兄のトリートを抱きしめてくれて良かった。ただ、もうこれからは本当に大人に頼っては生きていけない、二人だけしかいないのだということが強く残りました。

 トリートは母親を亡くしてから気持ちを張り詰めて、本当の想いは内側に閉じ込めて、もう誰にも自分の大切なものを奪われたくないとフィリップさえも閉じ込めた。どんなことをしても「兄弟だから」分かってくれていると考えていた。自分の言動がいかに浅はかで、感情的で、暴力的か気付いていても、今手にしているものを失うかもしれないと考えると変化が怖かったのだろうと思います。フィリップが母親を恋しがる姿を見ては、「自分だって同じだ」と悔しく思ったかもしれない。自分なりに、「自らの正義」を貫いて精いっぱいやってきたのに、その「正義」を否定するハロルドを前に抑え込んできた本当の感情が爆発する。暴力はただの鎧でしかなく、その中の生身の肉体はずっと苦しみもがき愛を欲していた。

 一方のフィリップは、トリートがどういう気持ちで自分を部屋に閉じ込めていたのか全部気がついていたのかもしれません。その上でトリートを大切に思っていたからこそ何も言えなかった。クライマックスに近づいて「トリートは何も教えてくれなかった!」とトリートを糾弾する場面がありますが、この言葉に私は愛を感じました。もう今の兄ならすべて受けとめてくれる。フィリップはそう思っていたはずです。

 ハロルドは生き方を教える役割を引き継いでいく人であり、次にそれを継いでいくのはこの兄弟であり、一番はトリートその人。同じく孤児だったハロルドにも、きっと無償の愛を注いでくれた人がいた。綺麗事ではない、出来事や物事の真実を知ることこそが生きる上で大切だということを教えてくれる人がいた。だからこそ迷うことなく二人にも同じように接した。そうすることがまるで使命であるかのように。「格好いい」なんていう陳腐な言葉で表わすのは口惜しいですが、生き様で魅せる美しい人でした。

 

CAST

 柳下大さんの舞台の演技は、すべてDVDですが『アメリカ』『淋しいマグネット』『タンブリング』しか見たことなく、「同業者から愛されている人なんだな」というイメージが強くありました。実際そうなんでしょうけど、熱量の人だなって。一番印象に残っているのは『淋しいマグネット』のシオン。環境と状況に飲みこまれているけれど、一番目を開いて現実を生きている姿を見せてくれてまさに好演でしたが、今回のトリートも、語弊を恐れずに言えば、壊れていく姿が美しかった。

 フィリップ役の平埜生成(ひらのきなり)くんこそ本当にはじめましてだったのですが、「ときどき松坂桃李に見えるな~」と思いながら前から二列目で観てました。でも、話が進むにつれて汗と涙と鼻水でドロドロになって舞台の上で生きているのが印象的で、劇団プレステージ恐るべし。

 高橋和也さんについて私がなにか言うことが良いのかどうかわかりませんが、一番記憶に残っている『そこのみにて光輝く』の鬼畜とは似つかない愛にあふれたハロルド役、本当に素敵でした。私も励ましてほしい。

 

 最後に、トリート(TREAT)というのは名詞にすると「とてもいいもの」とか「すばらしいもの」という意味です。今はいない彼の両親が彼にその名前をつけたということは、その両親にとって彼がそういう存在であったこと、そしてその弟のフィリップや育ての父のハロルドにとっても特別な存在であることは疑いようのない事実だと思える作品でした。

 

 

脚本:ライル・ケスラー
翻訳:谷賢一
演出:宮田慶子

●スタッフ
美術:土岐研一
照明:中川隆一
音響:長野朋美
衣裳:高木阿友子
ヘアメイク:武井優子
演出助手:渡邊千穂
舞台監督:福本伸生

宣伝美術:山下浩
宣伝写真:神ノ川智早
宣伝衣裳:手塚陽介
宣伝ヘアメイク:武井優子

宣伝:櫻井麻綾
制作:加藤美秋
制作デスク:西川陽子

プロデューサー:仲村和生(NAPPOS UNITED)/加藤康介

総合プロデューサー:渡辺ミキ

協賛:サカゼンゼンモール

主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント