取り留めもない

映画や舞台の感想書いたり、たまに日記も

劇団Patch『幽悲伝』

これが完成版なんだなという想いと、3ヶ月半のそして3年間の重さで心地よく疲れた。真面目に実直に生きることについて考える作品を、誰の色のついたフィルターも通さずに見られて本当によかった。演技、物語、美術、音楽どれも他を乱すことなく、ぴったりとがっちりと噛み合っていたと思う。 Dステ版は演技でも殺陣でも観てて安心できるくらいしっかりしてたけど、『ユウヒデン』のように見た人に考える余地を与える、いい意味で空白の多い物語にはパッチの揺らぎとか、泥臭さとか幼さがあっていたんだなぁと思わずにはいられなかった。はたしてこれがDステ用に書かれたなんて信じられないほどに。末満さんの話は「過不足なくちょうど良い」という感じが心地よいなぁと思うわけです。その塩梅を把握しているのはもちろん末満さんただひとりなんだから仕方ないけど、『夕陽伝』では大事な部分がなくて、要らない部分が多いなという気がしないでもなかった。そのもやもやとなんとかせんと大阪まで行って観て、その気持ちは間違いじゃなかったって実感した。
 
海里(村川勁剛)
瀬戸海里は殺陣も上手いし、かっこよかった。けど、海里の魅力ってたぶんそこじゃない。不安しかない自分自身の行く末を、チャラけてなんとか考えないようにしている。それでも迷って、悩んで、その先にやっと自分の「為すべきこと」を見つけて、ただそれは同時に心から望んでいた「自由」を諦めることでもあって、という生々しい成長の様を見せてくれる存在だから共感できるし、愛せる存在。村川海里からはそういう若さゆえの苦悩が痛いくらいに伝わってきた。なによりこの役に全身全霊を捧げてるなぁと。精神まで振り切れてしまいそうだったけれど。
 
都月(松井勇歩)
役はオーディションで決めて実際蓋を開けてみたら「全員やりたいと思った役じゃなかった」、っていうのが良く分かるのが松井都月だった。勇歩くんはどっちかというと海里のような軽さと口の上手さで人気というイメージ*1なんだけど、都月は兄への羨望と、陽向への愛情と、国への責任感でどんどん自分を苦しめるようなタイプ。結局「選ばれなかった者」としての彼の苦しみはこの世で昇華される前に、次の時代に生きる人たちに託されてしまった。最後の兄弟の一騎打ちでは海里に勝てないと分かって立ち向かっていく都月の狂気の姿にいろんな感情が込み上がって来て苦しかったです。(あとここでのテーマ曲『幽悲謡』の効果が最高)
 
都月がたった一つだけ海里より勝って“いた”ものってなんだったんだろうか。*2
 
 
 
出雲(竹下健人)
夕陽伝では海里と歳の差があって、敬語を使っていてという出雲だったけど、幽悲伝では幼馴染のマブ感がとても良かった。度々なれなれし過ぎて猿美弥に叱られるけど、身分の差をじわじわとボディーブローで知らしめられる感じでよかった。そしてなんといっても良いまゆげ。
 
 真多羅(三好大貴)
夕陽伝でも熊曾が最高だと思ったんだけど、幽悲伝の熊曾は凶暴さより冷酷さが際立って優勝だった。三好真多羅の虚ろな表情が、幾度戦火を勝ち抜いて、殊勲をあげても、それでも父親から認められることはなく、けれど認められることを諦められないという鬱屈さを表わしているよう。っていうかもう全部どうでもいいくらいに「かっこいい」って何度となく呟いてました。ヒールかっこいい。あと、熊曾側(真多羅&因幡)が赤の衣装で、そこに嫁ぐ陽向も赤の衣装でっていうそういうちょっとした想いの入れ方めっちゃ好き。
 
猿美弥(中山義紘)
国への気持ち、大王への気持ち、海里&都月への気持ち、陽向への気持ち、どれも平等にあるのだけれど、あくまで理性で生きることしかできない。彼はきっとこの国の法になっていくんだなと思った。あとなにより、夕陽伝でカットされてた(と思う)大王への「為すべきことが叶わない時にこそ、次代の者に託しましょう」という台詞。この概念がないと、海里が都月の意思を引き受けて生きていく決意の理由が分かりにくいと思うんだ。
 
富士丸(井上拓哉)陸奥(吉本考志)
役者の年齢的には井上くんの方が年下だけど、富士丸の兄としての覚悟と陸奥の純粋さがちゃんと兄と弟ですごいなぁって(素)「明日なにしたい?」というアースミュージックアンドエコロジー的なふわっとした海里の質問に、ただ「生きたい」という富士丸。でも、それだけでいいんだよ。それだけが重要なんだ。泥臭いけど美しい富士丸の言葉がいつまでも頭から離れなかった。
それと、重要なのが海里&都月兄弟との対比。やっぱり、末満さんはこういう対になるものが好きなんだろうと思う。目の前でかわいらしい兄弟喧嘩をして見せる富士丸&陸奥兄弟を見て海里はどう思ったんだろうか。懐かしさか、寂しさか。どちらにしてもつらいよなぁ。
 
因幡(杞山星璃)
幽悲伝だけにしかいないキャラクター。真多羅に幼い頃から仕え、真多羅こそが王に相応しいと信じている。そんなに口数は多くないけれど、発する言葉の総てが真多羅を中心とした世界を想定しているし、その死に際も真多羅を守ることが命よりも大切であるということを身を持って証明していて。因幡も出雲くらいに素直な気持ちで主に想いを伝えられたら、もしかしたら真多羅は毘流古に頼ることなどなかったかもしれない。そうすれば、こんな悲劇を招かなかったかもしれない。そう思えてしかたない。唯一無二といえる因幡の存在さえ、真多羅の哀しさをより引き立ててしまっていて、なんで夕陽伝にいなかったのかと、本当に頭を抱えた。あと星璃くん本当に殺陣が綺麗。
 
陽向(田渕法明)
夕陽伝の小芝陽向は一度死んでからの方が本領発揮感があったけど、田淵陽向は生きている時の切なさがすごかった。結局陽向は海里を困らせたくなくて、そして自分を拒否されたくなくて、伸ばした手をすっと戻してしまうし、熊曾の策略に気がついた時は絶望の淵に居ることを感じさせるし、本当にただの女子だと思ったのに田淵さん女子じゃないし、何かがおかしい。
 
毘流古(三津谷亮
比べて語るとしたら、三津谷毘流古は池岡毘流古よりも狂気を感じたから、その分だけ可哀想と思わないで済んだなという消極的な救いがあった。でも狂人のことは理解ができないと切って捨てるようなそんな思考が自分の中に見え隠れしている。あと死人の姿が割と『SPECTER』の純血種のヴァンプで、「トランプの世界では“死にたい”と願い続けていたソフィがこんなにも死ぬのが怖いと震えている」とも「あの頃のウルと同じように死に怯えている」とも考えたりした。
 
その他
12/19のアフタートークで「三好は最近自撮りが多くなった。関西ではそういうやつをいじるからメンバーもファンも『三好がナルシストになって帰ってきた〜』って言ってる。特に、この間ツイッターに「瀬戸さんが居ない稽古場、一番乗りになっちゃった」つって寝そべって自撮りしてて」という暴露があった。めっちゃかわいい。
 
ゲストの秋人くんが夜行バスで東京に来てたリーダーと勇歩くんの新幹線代をおもむろに渡して「明日これでゆっくり帰りなよ」って言ったっていう話、座長として250万近くも奢った人の近くにいたらそうしたくなるよねって思った。かっこいい人になるでこれは。
 
パッチ「パチステをDステでやったり、Dステをパチステでやったりしたいね」宮﨑秋人「それ、瀬戸くんから偉い人に言ってもらおうよ。それが一番はやい」のくだりが好きでした。どっちもまだDボに慣れてない感。
 
あと、パンフレットがなぜか萌え案件だったので手に入る機会があればぜひ!!!
   
Patch stage vol.7「幽悲伝」 [DVD]

Patch stage vol.7「幽悲伝」 [DVD]

 
  
 
*1:フォロワーさん曰く、関西ジュニアっぽいとのこと。
*2:逃げない覚悟、改め諦念かな(審議中)