取り留めもない

映画や舞台の感想書いたり、たまに日記も

映画『君の名前で僕を呼んで』

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STORY

1983年夏、北イタリアの避暑地。17歳のエリオは、アメリカからやって来た24歳の大学院生オリヴァーと出会う。彼は大学教授の父の助手で、夏の間をエリオたち家族と暮らす。はじめは自信に満ちたオリヴァーの態度に反発を感じるエリオだったが、まるで不思議な磁石があるように、ふたりは引きつけあったり反発したり、いつしか近づいていく。やがて激しく恋に落ちるふたり。しかし夏の終わりとともにオリヴァーが去る日が近づく……。

映画『君の名前で僕を呼んで』 | 4/27(金)TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー!

REVIEW

観る前からエリオかオリバーのどちらかが傷つく物語なんだろうなと思っていて、どちからっていうとオリバーかなという感じだったからそういう意味で裏切られた。もちろん芸術作品として良い意味で。

貧富の話ではなく、エリオは非常に恵まれた環境にいる。聡明で理解ある両親、美しい住居、多感で繊細な友人たち。その総てがエリオという人物を育て、彼もまた聡明で美しく多感で繊細に形作られてきた。彼はただ自分の感情のままに動くことなく、順序を追って確かめながら、でも時には突拍子もない言動でオリバーを魅了する。

そんなオリバーもきっとエリオのように恵まれた環境で生きてきた人物なのだと思う。あのラストも単に彼の狡さのためでなく、彼らの生きる社会の表現とそして対するエリオがまたひとつ成長するための行動だったのだと信じている。個人的にはオリバーには一生エリオを引きずって生きてほしい。

人にはその人を形成するのに必要な物語がある。エリオがこれからどんな人と愛を育むのかは分からないけれど、その度にオリバーのことを思い出すのだろうと思う。もしかしたらオリバー以上に愛することが出来るかと考えるかも知れない。そうして例え上手くいかなくても彼はその相手に「無駄な恋だった」と思わせることはない。彼がそれだけの人格者になるとこの物語を観ただけで思ってしまった。

どんなにつらくてもそんな恋を一生に一度はしたい。

natalie.mu

映画『となりの怪物くん』

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STORY

 行動予測不能な超問題児で“怪物”と呼ばれる春(菅田将暉)と、ガリ勉&冷血の雫(土屋太鳳)は、二人とも恋人はおろか、友達もいない。二人は高校1年生の4月、雫がとなりの席で不登校の春の家に嫌々プリントを届けに行ったことがきっかけで出会う。

それ以来、春は雫を勝手に“初めての友達”に認定し、さらに唐突に「シズクが好き」と告白。仕事で家にいない母親に認められるために、幼い頃から勉強だけを信じてきた雫にとって、友達や恋人などはただの邪魔な存在でしかなく、はじめは無関心だったが、やがて春の本当の人柄に触れ、次第に心惹かれていく。そして春と雫の周りには、夏目(池田エライザ)、大島(浜辺美波)、ササヤン(佐野岳)ら、いつしか個性豊かな友達が増えていった。初めての友情、初めての恋愛。そして、春のライバル・ヤマケン(山田裕貴)の登場により、初めての三角関係も巻き起こり、二人の世界が変わっていく。それは春と雫にとって、初めて“みんな”で過ごす時間だった。

そんなある日、春の兄・優山(古川雄輝)が春のもとに現れたことがきっかけで、春は絶縁状態だった父親の元へ突如連れ戻されることになり、雫の前からも姿を消してしまう。

なぜ、春は“怪物”になったのか?
そしてその真実が明らかになったとき、春と雫の恋の行方は −−−?

映画「となりの怪物くん」公式サイト|ストーリー

REVIEW

なんていうか物語的にはよくある感じ何だけど、映画として実写化して最高なのではと思ったのは割りと珍しいかなと思う。確実にあんなワンコみたいな菅田将暉を観られたファンは幸せなのでは。それに土屋太鳳ちゃんがなんていうか彼女に合った役というか、個人的には『人狼ゲーム ビーストサイド』以来の当たり役なのではと思うほど。仏頂面でたまに笑う感じが好きだよとても。この二人に関しては演技も上手いし特に言うことはなかったんだけど、一つあるとすれば良い場面でのアベンジャーズ並のアクションエフェクトはメチャクチャ笑ってしまうのでやめてほしい。

あとは池田エライザのことがわりかし好きになった。自分のことをかわいいと自認していてくれたほうが清々しくて良い。それに山田裕貴の当て馬感には磨きがかかってたなと思って好きです。

こういう映画は割りと心が荒んでる時に観るとなかなかに多幸感というかほっこりするのでおすすめです。作中の曲がまあ見事に西野カナしかないんですけどこんなに西野カナに感謝したことはないなって感じ。控えめに言って最高でした。

モダンタイマーズ『嗚呼いま、だから愛。』

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モダンスイマーズ - NEXTSTAGE - 句読点三部作

REVIEW

愛されない、愛されたい。そんな風に思うのは周りにすがる人が居るからだ。それは友人かも知れないし、恋人かも知れない。でも誰もいなければ愛されたいなんて思いもしない。妥協で構ってくれるほどみんな暇じゃない。だからこそ多喜子の叫びはわがままに聞こえさえする。持てるの人間の悩みなのだ。確かに「不細工」なことがきっかけだったのかも知れない。けれどそれに甘えたのは多喜子自身だ。不細工のキャラクターをまとっていつも欲求不満。変なことばかり勘ぐって。まるで自分が手に入れられないものや、知らないことなどあってはいけないかのように振る舞う。

If you can’t love yourself, how in the hell you gonna love somebody else?(自分のことを愛せなくて、一体どうやって他人を愛せるの?)

今ちょうど、ル・ポールのドラァグクイーンレース*1を観ているからふと思いついたこの言葉。多喜子は姉から「不細工なのはアンタのせいじゃない」と言われるけれどそれが一番つらい。自分のせいじゃないとしてもそれを認めるのは自分自身なのだから。

『嗚呼いま、だから愛。』というタイトルにあるのは他人からの愛じゃなく、多喜子自身が自分に向けるためのただ真っ直ぐな愛なのではないかと思いさえした。

西瓜糖第六回公演『レバア』

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STORY

昭和20年8月――終戦
家族を失い
身体を失い
心を失い
残されたのは焼け焦げた街
行き場のない誰もが住処を探していたあの頃

「君は、誰?」
「教えたら、どうにかしてくれるの?」

素性など知ったところで、 どうにもならず
涙など流したところで、どうにもならず
生きるために――その「家」はあった

とある一軒家に集まった老若男女
価値観の違いなどには目をつぶり、生きることを選んだけれど
違和感はそれぞれの心にフワリフワリと浮かんでは消え、消えては浮かぶ
笑い、泣き、愛し、歪み、騙す――ものたち

昭和という時代を経て、平成が終わりを迎える今、2018年。
西瓜糖は演出家、寺十吾を招き、多彩な役者たちとともに、ヒトが心の奥に隠し持つ「ザラツキ」を繊細に炙り出していきます。

あなたの、こころの、 レバアは押されるのか、引かれるのか、 それとも・・・

西瓜糖第6回公演「レバア」 | OFFICIAL WEB

 REVIEW

三津谷さんが出演しなかったら多分観ないだろうなというテーマのお話。戦争がどれだけ人の倫理観や道徳観を試すものなのか。そんなこと今まで考えてもみなかった。おかしくなったものをもう一度やり直す。当たり前が覆る。すぐに直せと言われても無理に決まっているじゃないと叫びたくなるのも無理はない。でもそうであってもそのおかしくなった思考を肯定してしまうのはやっぱり間違っているのかも知れない。分からない。レバアをしっかり握りしめて落ちていった男を笑った女の気持なんて絶対に分からない。「ざまあみろ、お前たちが負けたせいだ」なんとでも思っていたのだろうか。分からない。そんな女に一言言うためだけにあの屋敷を訪れた青年は今度はきっと女を赦すために生きるんだろうなと思った。同時に彼は償わなければならない。だから赦さなくてはならない。

舞台上には寂れた屋敷。革靴をパイナップル缶の汁につけた偽肉の香りが今にも漂ってきそうだった。

舞台『メサイア-月詠乃刻-』

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STORY

日本政府高官が次々と集団自殺を遂げる前代未聞の事態が発生する。
チャーチ・公安の調査により、新興宗教団体「照る日の杜」が関わっていることが明らかになる。
潜入調査に乗り出す公安五係。
時を同じくして日本の根底を揺るがすプロジェクトが動きだしたとの情報を入手する。
任務のなか、自分たちの過去に向き合いぶつかり合う御池と柚木。暴走する小暮に雛森は何を思うのか?
そして、迫り来る未曾有の危機の中、急浮上する「ミコトノリプロジェクト」の実体とは…?

そんな中、サクラとして任務に当たっていた一人の男が帰国する。
その男の名前は…加々美いつき。

MESSIAH -月詠乃刻- | STORY

REVIEW

その昔、神は人を造った。ではそのまた昔に神はどうやってできたのか。否、それは違う。神は人々が造った。何かを信じたいと願いその想いに縋った人びとが造った。そんな神がおそらくこの世界には沢山いる。八百万の神というのではない。それを求め必要だと信じるだけでいい。そうすれば誰かの「何か」になる。問題はその後なのかも知れない。その人々の想いを背負っていくには、真っ当な人間には荷が重すぎる。もしくは、背負っていくには穢れている。ただ稀に、そうして神になったものも居るだろう。私が見たのはそんな人間たちだった。 

御池万夜は求められた神だった。人々を癒やし慰め時には厳しく声を掛ける。人が迷い苦しんだ時の支えになる信仰としての神。どこかこの世を諦めているようなその態度は、仏教でいうところの諦念とでもいうのだろうか。普通の人間が成せないことを容易くして見せながらまた人のために苦しむ。それは一度死んで照日の杜から出ても変わらなかった。心の中では自分ができることの少なさを悔み無敵かのように振る舞うその姿はどうやっても変わりようがなかった。そうしてつい口走ってしまう。「殺してくれ」と。

一方で一度信仰に救われた人間は簡単には信仰心を失くさない。それは柚木小太郎も同じだった。彼は照日の杜や彼の家族に裏切られ殺されても尚、自分の信仰心のために復讐を誓っているかのように見えた。自分が信じていたものは何だったのか。あの時救われたのは間違いだったのか。どうしてこんなことになったのか。自分はこれから何を信じればいいんのか。そうやって自問自答を繰り返す柚木に一嶋はメサイアである御池を信じろといった。なんという悲劇、と誰もが思っていただろう。でもそれは単なる悲劇ではなかった。

御池には自分が思い通りにできなかった信者を与えた。

柚木には最期まで信じたかった御神体を与えた。

このどちらも彼らが生きていくには無くてはならないものだった。道標もなくただ暗闇を歩いていた御池には光が必要だった。真っ直ぐに自分がどこにいてどこに行けばよいか指し示してくれる太陽のような光が。絶対に揺るがない鋼のような想いが必要だった。そして柚木には自分自身を肯定できる意志が必要だった。自分が今こうして生きているのは間違いじゃない。一度死んだのにもきっと何か理由があるはずだ。その答えとなるような意志が必要だった。

彼らはお互いがお互いを補完するベター・ハーフそのものだった。

古代の最初の人間は、頭が二つに手足が四本づつあって、円筒状の横腹をそなえていて、現在の人間二人が背中合わせにくっついたような形で、丸いからだをしていました。男と男がくっついたもの、女と女、そして男と女の組み合わせの、三種類の人間がありました。この中で、男と女が一体となっていた人間は「アンドロギュノス」といわれていて、自惚れが強く、神々に戦いを挑もうとした人間たちでした。これに対して、ゼウスは怒って、それぞれの組み合わせのものを、2つに切り離すように決断しました。

全能の神ゼウスは、「アンドロギュノス」をまず二つに分けました。またアポロンは胸を作り、四方八方から皮を腹の真ん中へ引き寄せそこで締めくくったので臍と呼ばれているものができました。その後男と女を分ける作業をしました。もともと人間は一つのものだったのですが、二つに別れ、各々は半身に過ぎず、常に自分の半身を求める事になったのです。このようにして男達は皆女好きであり、女達も同様に男好きになり子孫を残すようになりました。

しかし、女と女、男と男の組み合わせの人間から別れたものの中には、女達は男には興味なく、女ばかりに心を寄せてものがおり、男達にも同じものがいました。同性愛者はこの名残であり、この種族から出てきます。

これにより原形を切断された人間は、失った自分の片割れに憧れ、自分のより良い半身である相手を、ベターハーフ(Better half)と呼ぶようになりました。

男と女をめぐる英単語の話:ベターハーフはなんで半分なの?/ハズバンドは家を持っている人? Jackと英語の木/ウェブリブログ

そうして彼らはこの物語の最後に一つになった。「殺してくれ」と言っていた御池が「生きなくてはならない」という言葉の重さを最も深く知っている。暗闇を歩いていた小さな神がやっとのことで太陽を見つけそして二つは溶け合う。この祝福すべきことがこんなにも苦しい。けれど、彼らはこれまでのどのメサイアたちよりも強固に繋がったのだ。

どちらが先に終わることもなく続くこともなく、ただ同じ時間を生き始めた二つの魂が舞台上に現れた時、心の中は肯定でも否定でもなくただそうあるのみなのだと思った。そして散っていく桜の中に私は確かに神を見た気がした。

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舞台『PHOTOGRAPH 51』

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STORY

女性科学者が殆どいなかった1950年代、ユダヤ系イギリス人女性科学者ロザリンド・フランクリン板谷由夏)は遺伝学の最先端を誇るロンドンのキングスカレッジに結晶学のスペシャリストとして特別研究員の座を獲得する。当初、彼女は独自の研究を行う予定でキングスのポストを引き受けたのだが、同僚ウィルキンズ(神尾佑)は、出合い頭、彼女を助手として扱う。この雲行きの悪い出合いが、その後彼女たちの共同研究のチームワークの歪みを作るきっかけとなる。形式上、共同研究者となったロザリンドとウィルキンズだが、二人は常に衝突を繰り返す。助手で指導学生ゴスリング(矢崎広)がおどけた調子で2人の橋渡しを図っても一向に効果はない。ぶつかり合いながらも、ウィルキンズはロザリンドに密かな恋心を抱くようになり、幾度も関係の改善を試みるが敢えなく不毛に終わる。ロザリンドが唯一心を許すのは、彼女に憧れを抱く若きユダヤ系アメリカ人科学者キャスパー(橋本淳)である。この事実もウィルキンズにとっては面白くない。子供じみた嫉妬をあらわにするが、ロザリンドにはウィルキンズの秘めた思いは全く通じていない。こんな調子であるから、当然研究も早く進むはずがない。ロザリンドが特殊カメラを駆使して撮影するX線画像は明らかにDNA構造の謎解きの鍵を映し出しているのだが、協力体制の取れていないロザリンド&ウィルキンズチームはその謎の解明に到達できない。そうしている間、野心家のアメリカ人若手科学者ワトソン(宮崎秋人)とウィルキンズの旧友クリック(中村亀鶴)がチームを組み、DNAの謎の解明に挑み始める。ウィルキンズを通じて、ロザリンドのX線画像の情報を入手したワトソン&クリックチームは、彼女の写真と論文を元にして、ついにDNA二重らせん構造の発見に成功してしまうのだった…

『PHOTOGRAPH 51(フォトグラフ51)』特設ページ 梅田芸術劇場

REVIEW

悲劇的だ、それにしては美しい。研究に一生を捧げたロザリンド(板谷由夏)が最後に思いを巡らせたのはひとつの出会いと始まり。もしあの時、そんな風に思う人生をきっと彼女は想像していなかった。ロザリンドは完璧で、だからこそ不完全だった。

実際の出来事を基にした作品でありながら、ことを詳らかにするような展開ではなく、あくまで演劇作品として素晴らしかった。説明的な台詞が多くなりがちではあったが、それ以上にモノローグと会話のテンポがよく飽きさせない。サラナ・ラパインの演出が効いていた。

これが初舞台という板谷さんのロザリンドが良い。彼女のロザリンドは「女性」というイメージを頑なに拒んでいる様子が痛快でもあり、時々息苦しくさえ感じ、哀しくもあった。初めはそれが高圧的にも感じたが次第に愛おしくなる。

そんなロザリンドと対立するウィルキンズを演じた神尾さん。おそらくはじめまして。ウィルキンズの基本堅物で、でもロザリンドの前ではなんとかその殻を破ろうとする姿が可愛かった。

矢崎さんのゴズリングは本当にお茶目。話が硬い方向に向かって行ってもゴズリングで和むみたいな時間が何度かあった。すごく良い役回り。

ワトソン役の宮崎秋人を一つの目当てに行ったんだけど、この作品で初めて見る一面が多かった。いつもは大体「元気」「騒々しい」「いい奴」な役が多いけど、今回は自分の知的欲求に素直で、それが反面ずる賢くも見える役。今回の方がよっぽど人間的な役者宮崎秋人を見た気がしている。

ロザリンドに思いを寄せるキャスパー役は橋本淳さん。あんな朴訥に想われたら好きにならざるを得ないと思うんだけど。スマートで理性的、それなのにどこか熱い思いを秘めているのが節々に現れている演技だった。

ワトソンと共にDNAの研究をするクリックを演じたのは中村亀鶴さん。彼らがノーベル賞を受賞してから、「世界にささやかな変化をもたらすことができればそれでよかった」というような台詞を呟くところがあるのだけど、それがとてつもなく切ない。研究者としての喜びはそのまま個人としての喜びと直結しないのだななんて。

内容は異なるけど雰囲気は『イミテーション・ゲーム』に似ている。

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 素晴らしい作品なのでいろんな人に観てほしいし、感想を読みたい。

関連動画

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フォトグラフ51制作実行委員会『フォトグラフ51』04/06-22東京芸術劇場シアターウエスト |

舞台「テイク・ミー・アウト 2018」

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STORY

男たちの魂と身体が燃え滾る、「ロッカールーム」。彼らにとってそこは、すべてをさらけ出せる楽園だった。ひとりのスター選手による、あの告白までは-。

黒人の母と白人の父を持つメジャーリーグのスター選手、ダレン・レミングは、敵チームにいる親友デイビー・バトルの言葉に感化され、ある日突然「ゲイ」であることを告白。それは、150 年に及ぶメジャーリーグの歴史を塗り替えるスキャンダルであった。しかしダレンが所属するエンパイアーズ内には軋轢が生じ、次第にチームは負けが込んでいく……。

そんなときに現れたのが、天才的だがどこか影のある投手、シェーン・マンギット。圧倒的な強さを誇る彼の魔球は、暗雲立ち込めるエンパイアーズに希望の光をもたらしたのだが-。

舞台「テイク・ミー・アウト 2018」オフィシャルホームページ | チケット情報やキャスト紹介など

 REVIEW

できるだけさまざまな人間を、描こうとしているのだなと思った。そして美醜も含めて沢山の出来事を舞台上に浮かび上がらせた。ただのカミングアウトの話じゃない。セクシャルマイノリティだけの話じゃない。差別の話だ。

閑話休題。ここ最近のタイムラインではセクシュアリティに関する話題が多かった。「差別をする人への差別」についてのネット記事や「マイノリティを理解してほしいんじゃない。平等に差別がなくなればいいというだけ」という意見。確かに何事も革命が始まる時にはオピニオンリーダーいて、全員を代表するような物言いで演説する必要はあると思う。でもそれがある程度成熟してくると、逆のことを言う人が出てくるようにもなる。そんなのいろんな人がいるのだから当たり前で、これはどうしようもない。そういう風が流れた時こそ変革の時。偏見や差別はもちろん配慮もいらないというマインドに変わっていけばよいと個人的には思う。わざわざ「カミングアウト」したり、それに対して慮るようではまだまだ先は長い。

舞台の話に戻す。誰からも憧れていた白人と黒人のハーフというキャラクターのダレン・レミング(章平)。こういうキャラクターを出す時点で「ある程度」人種差別に対する考え方が成熟した状態であることを示しているのだと思った。そんな彼がゲイであるとカミングアウトした。それは環境や彼自身の覚悟が固まり、そのことで何と言われようと非難されたとしても大丈夫と驕っていたからできたこと。彼はアメリカの憧れである彼が周りに与える影響を軽んじていた。自分さえ保てていれば必ず前に進んでいくと思っていた。でも実際は違っていた。まだ彼の考えていたような世界になっていなかったのだ。彼のその告白がいろんな人の行動や人生を変えた。それだけでも人は一人では生きていけないものなのだなと改めて考えさせられた。

そんな渦の中、彼とメイソン・マーゼックは出会う。メイソン(玉置玲央)は彼自身のやり方でダレンを知ろうとする。初めて会った時から恋をしていたのかもしれない。でもそれと同時に野球に恋をした。ダレンが野球を嫌いになりそうだった時も、初めて野球を知った子供のような純真な心でメイソンはダレンと向き合った。それは確実に「同性だったから」惹かれあったのではないというような気持になるまでの愛の結晶の美しさがあった。結局、人間は性別を好きになるんじゃないのだと改めて感じる抱擁を観て涙を堪えることができなかった。雰囲気は異なるが、中村明日美子の『Jの総て』にも同様の愛を見ることができる。

新装版Jの総て1 (中村明日美子コレクション 4)
 
新装版 Jの総て2 (中村明日美子コレクション 5)
 

 親友のダレンを、そして言葉を知らないショーン(栗原類)を一番理解していると信じていたキッピー(味方良介)はこの物語の進行役として存在し、観客に最も近い存在だった。それは「理解している」という態度をとってしまうことも含めて人間という集団に似ている。そもそもそういう驕りがあって、他と違う態度をとることがひとつの差別であるという課題を乗り越えられていない。こんなこと書いているからといって乗り越えられるべきなのか、そんな日は来るのか私には分からない。少なくとも私は「理解する」よりも「特別視しない」ことに努めることができるだけ。世の中が特別だと思っている人よりも、北関東から出てきた20代の面倒くさい人間の方が周りに害な気がするし。私だ。

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クィア・アイ』というリアリティ番組の中で、もちろん活躍するのはセクシャルマイノリティの5人なんだけど、それと同じくらい彼らと時間を共にするその他の人たちの想いや考え方をフューチャーしていて良かった。この番組に出るくらいだから差別感情丸出しなんてことはないんだけど、それでも特別視しないなんてことはなくて、観ているこちらはただ「当たり前」に感じられるようになればよいなと心の底から思う。それでもやっぱり「思っていることはちゃんと伝える」という国民性のアメリカはそれによる衝突が多い分進歩も早いのだろう。

ところで味方くんのキッピーはめちゃくちゃ本田圭佑

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シーエイティプロデュース『Take me out 2018』03/30-05/01 DDD青山クロスシアター |

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今普通にグローブがほしいの。

 

全然関係ないけど私の中のTake Me Outはこれです。

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