取り留めもない

映画や舞台の感想書いたり、たまに日記も

映画『作家、本当のJ.T.リロイ』

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映画『作家、本当のJ.T.リロイ』公式サイト

REVIEW

JTリロイの本は読んだことはない。脚本の元を書いたと言われている『エレファント』が好きで、『サラ、いつわりの祈り』を観ている程度のステイタス。どちらかと言うと、デニス・クーパーの方が好き。

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『Jerk』って舞台化されてたんだ。へー。

話を戻すと、彼女の嘘に付き合ったわけでも作品に思い入れが合ったわけでもない自分がこのドキュメンタリーを観て、「これもまたフィクションだな」と思ったので、嘘かホントかなんてもうほとんど関係ないんだなと。いや何ていうか、詐欺って言われればそれまでだけど、作家という嘘をつく仕事をすればなんとかなるんだなとも思った。でもまあ、分かってみればつまらないことだから、結局のところ暴いたところでなんの面白みもないことってあるんだな。ひとつだけ言うとすれば、スマッシング・パンプキンズのビリーとローラ・アルバートが心を通わせたっていうくだりだけがなんかちょっと異様に、いやめちゃくちゃ気持ちが悪かった。ただのおばさんに付き合う必要が?

ところで、スマパンは『Tonight, Tonight』が好きです。

youtu.be

P!ATDがカバーしたのも好き。ブレンドンの場合、声が太く感じるけど。

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話はかなり脱線するけど、ブレンドンのミュージカル『キンキー・ブーツ』出演おめでとう。本気でNYまで観に行きたいと思ったよ。

bunshun.jp

「他人の自意識にどこまで付き合えるか」を問う映画だ 

 わかる。わかりみがありすぎて首がもげそう。

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天才少年作家、J.T.リロイ事件の裏にあった真実という「リアルなファンタジー」|映画『作家、本当のJ.T.リロイ』コラムニスト・山崎まどかさんによる解説 - 骰子の眼 - webDICE

オタク女子が妄想した魔性の美少年を世に放つ―岡田育が語る『作家、本当のJ.T.リロイ』|なぜ、作家ローラ・アルバートは10年もの間、J.T.リロイに物語を語らせたのか - 骰子の眼 - webDICE

本人のインタビューより、あの当時騙されて今回の映画を観た人の感想の方が面白いので置いておきます。最後に、女王蜂のアヴちゃんとの対談記事があったので、それはそれで趣向が最高(韻を踏む)だと思ったので下記に。

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何だよこの青い髪の目立ちたがり屋さんは。

劇団た組。第13回目公演『まゆをひそめて、僕を笑って』

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STORY

恋愛経験はあるものの、心より人を好きになった経験の無いセイヤ(藤原季節)は美術学校で講師を勤めながら、年下のマー(岡本あずさ)と体の関係を持っていた。

マーは自身にとって初恋の人であるセイヤと、関係がハッキリとしたないまま、続けていても良いのか、唯一のマーの親友であるカズハ(仲谷明香)に相談を続けている。

セイヤの務める美術学校に通い、自身の経験から約束のある男女関係に嫌気が差していたジュリア(福田麻由子)。
講師と生徒の関係であるセイヤと、セイヤの先輩タケウチ(風藤康二風藤松原)をきっかけに互いに興味を持ち始め、徐々に二人は心に恋を芽生え始めさせていく。

同じ美術学校に目的も無く通い日々を意味無く過ごしているモク(佐伯大地)と一人の時間が嫌いなコトノ(伊藤寧々)。
ジュリアと仲の良いハル(平嶋夏海)と四人でつるむこともしばしば。
しかし、そこにジュリアとセイヤの恋仲が絡まり始めた事で…

__リアルな若者が描く、リアルな若者ラブストーリー。
劇中の生歌と生演奏を担当するのは谷川正憲(UNCHAIN)。

劇団た組。第13回目公演『まゆをひそめて、僕を笑って』公演HP!

藤原季節くんの初主演舞台。初めての劇団の作演出。すっごい好きか、苦手かどっちかだなと思って赤レンガ倉庫へ。それにしても来月もKAATにくるのかと思ったらまあ遠いな。もっと近くなったらいいのにな。

 

物語について

恋愛ものだと分かっていたけど、ウルトラミラクルラブストーリーだったらしんどいなとドキドキしていた。恋愛賛歌をすんなり受け入れられるほどまっすぐ生きていないので。しかも赤レンガ倉庫でしょ。こんなのデートスポットじゃん……そんなドギマギした想いを主役のセイヤを演じた藤原季節くんとその恋人のジュリアを演じた福田麻由子さんの怒鳴り声がふっ飛ばしてくれた。すごいよほんと。何って、いやまあ全部どうでもいいやりとりなんだけど。恋愛の細部の本当にくだらない、どうでもいいやり取りが面白いと感じるのは、人間と人間の会話や態度の中にリアリティがあるからで、そんなのがたくさん詰まっていた。本当に人を好きになることができないと思っていたセイヤが、人とつながっていないとられないジュリアと出会って恋をして嵌って裏切られて、別れて初めて本当に好きだったんだと感じて。起きていることはあまりにも普通でよくあること。言ってしまえば夢も希望もない。最後は恋愛の壁にぶち当たった男が泣くというちょっぴり男のロマンチシズムを感じる終わり。ねもしゅーだったら女側のサバサバした一面を表現して終わりそうだなと思ったりした。男性って女性の何倍も恋愛に夢をみているんだなって。みんな格好悪いのよ。でもそれは自分自身を完全に晒してしまっているからなんだなって思ったら、恋愛ってすごいよなとも考え出してしまって。だって普段は自分の見せたい理想を演じたりして、いろいろ隠しているのに結局他人でも恋人には全部晒そうとしてしまうなんて。愚かなんだか、真理なんだか。しかも、男性は究極までそれを望むけど、女性はある程度の隠し事は仕方ないってどこかで考えている。その差がこの作品でもいろんな面倒くさい状況を生み出していく。全部理解し合おうなんて無理なのに。なんてことでしょう。人間ってタイヘン。男性版『ピースオブケイク』みたいだって言えば伝わるかな。

甘々なラブストーリーだとばかり思っていたから中盤からクライマックス手前まで自分が笑いっぱなしだったことに驚きを隠せなかった。なにあれ。会話劇って小難しい何かだと思っている人がいたら、この作品を見てありとあらゆるところで標準化されすぎているから「まいばす(まいばすけっと)の餃子が旨い」っていうくだりでツボるはず。なんだよそれ。文字にしたらくだらなすぎるだろ。分かるけど。パンフレットやらで撮影されているのが沼袋駅っていうのも妙なリアリティがあってよかった。同棲カップル多そう。それにしても、作演出の加藤さんってまだ23歳らしく。そんな馬鹿な。でも、自分の周りを描くことに徹したらあそこまでのリアルが生まれるということなのか。うーむ。これからもた組。の舞台を観に行きたい。

 

キャストについて

藤原季節くんは、前回の出演作『二度と燃えぬ火*1』でも舞台映えのする役者さんだなと思っていたけど、今作でも歴が浅いのに落ち着いていて、舞台上で一秒たりとも「藤原季節」として立たないことがまずすごいなと。もちろん、役者としては当然だけど、役者軸で作品を観ることが多い自分にとって「あっ、〇〇(役者の名前)くんかわいい」って思うことも少なくない。だけど、季節くんが演じている時にはそういうことを考えない。純粋にセイヤという人物の人となりとか、動作に見入っていた。余談だけど、雑誌のインタビューで「北海道民は大人になっても生まれ育った場所を離れないと知って上京しなきゃと思って出てきて大学に入ったものの、一年で行かなくなって、どうしようかと思っていたほぼニート時代、事務所のワークショップにボロボロの服、伸びきった髪で参加したら『合格』って社長に言われて役者になった」という旨の話を読んで、松田美由紀(社長)もすごいなと思ったけど、季節くんも肝が座ってるというか、役者たる理由がここにあるなと。普通そんな格好で行かなくない???しかもそんなボロボロな人間を雇おうと思わなくない???信頼と安心のオフィス作。これからも応援し続けます。

作品に話を戻します。中盤以降、基本的にセイヤとジュリアの喧嘩シーンが続くんだけど、今回でいうと男性の問題点というよりは女性の一貫性のなさとか、曖昧さが際立って描かれている。いわゆる小悪魔的なところ。そんな中、対するセイヤは振り回され、自分のコンプレックスを身近な人たちの前で晒されてしまう訳だけど、それが滑稽で愛おしい。男のプライドを切り刻むことなんて容易い女からの攻撃にオロオロするばかり。女は基本的に口が達者だから、少しぐらい自分の言動に齟齬があっても気にしない。傷つける傷つける。そんな開き直り女を演じる福田麻由子さんは、実際そういうことをしたり言わない賢そうな雰囲気のある女優さんだからそのちぐはぐした感じも面白かった。そしてそんなジュリアにズタズタにされてもなお「好きだよ」と言い続けるセイヤはどうしようもなくかわいい。途中、叫んでる姿がサンシャイン池崎と重なって笑ってしまった。女はもうその段に至ったら「そばに誰かいてくれたら良いな」くらいにしか思ってないよ多分。これが男女差か。わかり合うってなんでしょう。

もう一方のカップルのモクとコトノは面白いんだけどちょっとファンタジック。殺してしまいたくなるほど好きってすごい。コトノ役の伊藤寧々さんは完全にメンヘラってた。うまいうますぎる。元々乃木坂の子なんですってね。納得。そして、モクを演じる佐伯大地くんを見るたび「街活ABCだ」となってたのは私だけでしょうか。可能性は潰さないタイプの男性、正直を極めてて嫌いじゃないです。

セイヤと関係があったマー(岡本あずさ)はなんだろう。ちょっと曖昧な存在だった気がする。セイヤのことが好きで、でも振られて、子供ができたかもしれないのに、でもまだセイヤのことが忘れられない。心配して欲しくてヒモ男の話をしたり。素直じゃないなぁとは思う。良いじゃない好きって言えば。どうせ男なんて好意を寄せてくれる人に弱いんだから。って思いながら、この人のことは理解するべきではないのかもと思った。理解してもなんにもならない。

役として一番好きだったのはタケウチさん。あの人しゃしゃってきて面倒だしウザいなとも思うけど、めちゃくちゃ良い人。当人たちは存在すら意識してないと思うけど。

回転する舞台も面白かったけど、一列目は近すぎて舞台の高さが気になった。死角が多い。UNCHAINのボーカルの方が生演奏してたのも赤レンガ倉庫ならではかな。以前ここで観た『怪獣の教え』でもTWIN TAILの演奏が一番記憶に残っている。個人的に、アンチェインと聞くと「アンチェイン梶」を思い出してしまう私。豊田利晃監督の新作まだかな。

『まゆをひそめて、僕を笑って』で初主演舞台を経験した藤原季節という役者を、私は今まで以上に心底好きになった。そして今は『ジュリアに傷心』を聴いている。

公式HP

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インタビュー

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「理解」について考えている日記

※完全に自己フォロー文章です。

新しい環境に置かれてはや3週が過ぎ、健康診断の仮払い分が入金されていて儲けた気になっていますが、実質プラマイゼロです。そんなことはひとまず、私自身そんなに理解度の低い人間ではないと思ってます。全くゼロ経験の分野でも、どちらかと言えば座学のほうが身につくタイプだし、問題ないと思ってました。今もそうです。個人的には理解度90%くらいで聞いているつもりなのに、なんだか周りの期待とは噛み合わなくてなんでだろうって思ってました。何が分かってないのか分からない。それで今日ふと思いついて膝を打ったので聞いてください(実際には読んで下さい)。

例えば、「いい国(1192年)作ろう鎌倉幕府」で私は教えられたので、「鎌倉幕府は1192年に始まった」と覚えています。でも、ウィキペディアにはこうあります。

鎌倉幕府の成立時期をめぐっても諸説あり、頼朝が東国支配権を樹立した治承4年(1180年)説、事実上、東国の支配権を承認する寿永二年の宣旨が下された寿永2年(1183年)説、公文所及び問注所を開設した元暦元年(1184年)説、守護・地頭の任命を許可する文治の勅許が下された文治元年(1185年)説、日本国総守護地頭に任命された建久元年(1190年)説、頼朝が征夷大将軍に任命された建久3年(1192年)説がある。

鎌倉幕府 - Wikipedia

どれなんだよ案件ですし、個人的には「教科書に1192年って書いてあったんだからそれが正解なんだよ」とこれからも言い続けます。

で、つまり今の状況に当てはめると、むこう(会社の人)は諸説を知っている専門家で、自分たちで諸説の中から答えとなるものを生徒(私)に教えているはずなのに、「鎌倉幕府が始まった年は?」の質問に「1192年」と答えると「いや本当にそうかな?」って言われている感じ。正直、教えてもらってない諸説のことなんて自然に思いつくことなんて永遠にないし、そういう意味で謎な理解の期待値をふっかけられている気持ちです。それなら全部答えを教えて答えさせるか、ここでの正解を固定させてくれよ!こっちは基本簡略化とスピードの鬼なんだからな!絶対に譲れない一線だけちゃんと分かればあとは上手く歯車として生きていく自信があるから宜しくな!と真面目にそう感じました。ハァ。こんなことを書いていますが、今の環境楽しいしもっとお勉強しなきゃなぁという心境です。以上。

映画『T2 トレインスポッティング』

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STORY

かつてレントンユアン・マクレガー)は、麻薬の売買でつかんだ大金を仲間たちと山分けせずに逃亡した。彼が20年ぶりに故郷スコットランドエディンバラの実家に戻ってみるとすでに母親は亡くなっており、父親だけが暮らしていた。そして悪友たちのその後が気になったレントンが、ジャンキーのスパッド(ユエン・ブレムナー)のアパートを訪ねると……。

映画『T2 トレインスポッティング』 - シネマトゥデイ

REVIEW

「これは絶対失敗するやつだ・・・」と思っていただけに、投げやりだけどある意味絶対的な人間賛歌になっていて、待っていて良かったと感じた。

原作となっている『ポルノ』は結構前に古本屋で買って読んでたんだけど、映画から9年後の世界ということもあってそこまで強烈なカタルシスを感じてはいなかった。「みんな中途半端に可哀想な大人で格好悪いな」って感じ。

トレインスポッティング ポルノ

トレインスポッティング ポルノ

 

でも、映画の設定でも実際の撮影ブランクも20年という時間が経って、その中途半端さがなかった。もうどれだけもがいたってやり直せる気にならない年齢。体力。財力。知力。前を見れば薄っすらと最期の瞬間まで見えてくる。過去を振り返ることは無意味だし、そのことによって自分の生き方を変えられることもないと分かっているのに、そういう前提のもとにやっぱり昔と同じことを繰り返している。

Q:「時間」や「年を取る」ということと、うまく向き合うのは難しいですよね。

うん、サイモン(=シック・ボーイ)は今も髪を脱色し続けているしね。もう髪自体、抜けてきているのに(笑)。とても多くの男性たちが本当の年齢よりも自分を若く見せようとしている、というようなことを彼は象徴しているんだ。過去を生きているというわけじゃないけど、彼らは過去を際限なく再現しようとしている。虚勢を張って、恐怖や死をひっくるめて人生を楽しむ。もう一度、それを楽しむことしかできないんだ。

『T2 トレインスポッティング』ダニー・ボイル単独インタビュー~レントンとシック・ボーイの特別な関係~ - シネマトゥデイ

過ちや失敗さえも繰り返し、傷ついたとしても自分の選択として受け入れる。このやり方を完全に理解できるとはいえないけど、「人間いつだってやり直せる」「向上心だけが生きる価値」みたいなエゴを押し付けられることに慣れてしまった人たちには、こういう生き方が提示されることで、自分自身が生きていくことに対してもっと楽になれる。

人生はただ送るものではなく、自分で選ぶもので、選んだものが人生なんだ。

Zu々プロデュース公演『Yè -夜-』

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STORY

中国の地方都市。その寂れた裏路地に毎夜のように一人立ち、出会う客に身体を与える事で日々の糧を得ている水仙(スイシェン)。いつものように過ごす《夜》だったはずが、一人の青年と一人の少女との出会いが、その《夜》を変えていく。ゲイの自分に後ろめたさを感じながら水仙と《夜》の深い世界に溺れていく青年・夜来香(イエライシャン)。娼婦として水仙と同じショバに立つことに決めた薔薇(チアンウェイ)。

その出会いから紡がれる“自分を否定し、誰ともつながれない若者たちが、それでも、つながりを求めて生きようとする中で自分を見つめ直していく”物語。自分の気持ちに素直になれない、恋に臆病な若者たちに訪れる結末は・・・

Yé -夜- 公式サイト 

REVIEW

前回のZu々プロデュース公演『Being at home with Claude~クロードと一緒に~』の終了後、概要が発表された時から気になっていた今作。いつの間にかプレミアムチケットになっていて、チケット取りには苦戦したけど一公演だけ入ることができた。だから正直、期待値はかなり高かった。ありきたりだったらどうしようと思った。でもそんなのは杞憂で、自分が想像していた内容をいろんな角度から裏切った驚きと新鮮さがあった。

物語について

原作である中国映画『夜』(2014年)は、周豪:Zhou Hao監督が大学在学中に、脚本・監督・編集、主演を果たしたインディペンデント作品。なら国際映画祭では最高賞であるゴールデンSHIKA賞、中国独立映画祭:新人賞、ジュネーブ国際独立映画祭 批評家賞と多数の国際映画祭で高い評価を受けた注目作。

2014年のリアルを描いた映像作品が原作となっているだけあって、例えて言うなら『クロードと一緒に*1』にあったドラマチックな台詞や展開は少ない。だからこそ、その全てではないにしても、自らも理解のできる親しい他者の話として「真に受ける」ことができる物語だと感じた。よくよく考えたら笑ってしまうような台詞や行動も、当事者意識が邪魔をしてなかなか笑えなかったのではないかと思う。

愛の物語というよりも、水仙(北村諒)、夜来香(松村龍之介)、薔薇(平田 裕香)、刺(谷口賢志)を通して中国のマイノリティの人々について考えさせる、社会的な物語という印象が強く残った。「同性を愛する」というテーマをもって物語はそれだけでドラマチックにとらえられやすいが、今作は夢見る物語になりすぎず、ブラックジョーク的に自嘲的な笑いを混じえていたように感じた。抗ったとしても「平凡で残酷な世界」を生きなくてはならない哀しさ、そして一歩踏み外せば深い絶望に繋がってしまいそうな不安定さが作品全体の空気感としてある。個人的にはここが物語一番の魅力だと思った。話は脱線するけれど、こういう空気感はロウ・イエ監督の『スプリング・フィーバー*2』の中でも表現されていた。おすすめです。

また、舞台上での役者の演技は「一糸まとわぬ」とはこのことかと思った。中途半端にやらないという気持ちが根底にあっての演技はやはり身に迫る。それを前にして途端に観客は彼らの熱と、朦朧とした意識に包まれ、彼らがそこで生きていることを実感した。

 

キャラクターとキャストについて

ナルシストの語源のナルキッソス水仙の花。 だから水仙はも自己愛が強くて、自分自身を受け入れて愛しているものだと想像していた。北村諒が演じた水仙は、想像通りとてもプライドが高く、だがしかし一方でとても弱かった。おそらくあのままあの場所に立って仕事を続けていたら、不安定な自分自身に殺されていたのじゃないかと思う。自分を認めたいのに、周りには強く見せてはいるのに、肝心の自分が一番自分を拒んでいる。愛したいのに愛せない。全てを受け入れようとする夜来香に対して素直になれないのは、自分が自分を受け入れられないから。クライマックスで本当の意味で水仙と夜来香が向き合って、自分たちが鏡であったことに気がついた時に、一気に水仙の弱さが露呈する。彼を受け入れようとする夜来香に対して「(心/懐に)入ってくんなよ」と叫んだ姿は彼そのもの。彼も決して自分の生きたい道だけを真っ直ぐに歩んでいた訳ではない。偽りながら相反する二つの人間を生きてきた。その抑圧が夜来香によって解き放たれた時に、この話のカタルシスがあった。

松村龍之介の夜来香には、愛する人を受け入れたいと真っ直ぐに生きる姿が魅力と、その今やっと自覚し確認した気持ちの幼さを持っていて、愛らしかった。全部預けるには不安だけど、最後まで一緒に歩いていくことはできるかなと思うこの感じ。ラストシーンで水仙が眠る夜来香に寄り添うのがまさに。初めのうち、夜来香は自分の存在をどう認めればいいのか思い悩んでいるようだったし、実際にそうではあったんだけど、逃げてしまっていた水仙よりは何倍も自分に向き合っていた。「これからどう生きるか」の問いにちゃんと答えを出していた。結局それが水仙を救うことができた理由なんじゃないかと思う。

水仙と仕事を同じくする薔薇は、一見社交的でポジティブな人物のように見えるが実は「人と繋がれない」と言う。だから一人でいるのだと。この仕事をするのだと。この感覚は水仙が持つものと同じような気がする。だからこそ久しぶりに会った姉弟のように過度に分かり合おうとはせず屈託のないやり取りができる。とても魅力的な人物だった。

谷口賢志が演じる刺は、ある意味一番の被害者だ。水仙や薔薇のように「普通」というものに疑問を持ってその社会から一歩踏み出した人たちと、夜来香や刺のように「普通」を生きようとしている人たち。どちらが偽る部分が多いか考えてみればすぐに分かる。普通に働いて、普通に結婚して、家庭を作って、でもそれが本当に望んだものでなかったら、どうして自分を保てるだろう。感情の糸が切れ、その場所にはいない誰かや何かを恨んで叫んだ刺に向かって、「俺たちは先輩の奥さんじゃありません」と言った。どんな理由であれ今の生き方に限界を感じている刺を夜来香が切って捨てることはないんじゃないかと思って少し違和感を感じたが、それが夜来香の未熟さなのだろうか。一方の刺は夜来香を自分に親しい人だと思っていた節があるし、少なくとも他の人より信頼していたはず。犯した罪は大きいけれど、信頼していた相手に突き放される刺が切なかった。

 

私自身この物語の中の誰にも憧れることがなかった。

それほどまでに皆んな未熟で青臭くてみっともなかった。

でも私はそんな彼らのことを愛している。

 

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natalie.mu

aooaao.hatenablog.com

取り留めもなくホストのことを考えている

別にエースだったとかそういう話じゃないしホストクラブに行くことは、今のところ1000%予定にないので見えている部分だけの話。そんなことしか楽しくない今日この頃。

のんべんだらりとして動画サイトを観ていたら、おすすめにちょっと昔のホストの売上争いの映像が上がってて、「懐かしいな~」と思いながら眺めてた。ニュースかなんかだったと思う。昔と言っても10年はいかない、5年ぐらい前の映像。同じクラブでも、ナンバーワンを争って、殴り合いとか、口喧嘩とかそういうのがコンテンツになってた。1500万とかいう「これなに代だよ」っていう酒が空いたり、インフレがもうとにかくすごかった。それこそ、ホストは髪型と服装に特徴があって、当時でもダサいを一周したような格好だった。

その動画の横でサジェストされてたのは、今の現役のホストたちの動画で、なんていうか彼らは美意識高めな人っていうくらいなレベルで、私が知ってる「ホスト」のイメージは全くなかった。正直「ヴィジュアル系バンドのメンバー」と言われたほうがしっくりくるんじゃないかな。もしくは若手…優。まあでも、ホストがホスト然としていた頃の若者は皆ホストに見えた気がするので、時代を象徴する男というだけで、いつの時代も中と外は大差はないのかもしれない。

そんな今のホストたちは動画サイトで和気あいあいとした映像を垂れ流している。「仲間大好き♡一緒に働こうぜ♡」みたいなそういう。そこには昔あったようなホスト同士の衝突とか軋轢とか感じられなかった。単純にそういう雰囲気の映像が流行らないからかもしれないけど、今はどこでも仲良し売りなんだなって思って、またここでも納得した。当然現在を生きる私も今の方が好き。コンテンツとして最高に楽しいから早く更新してくれないかなとまで思っている。

これまでにも増してどうでもいい話だが、今のホストってなんだか皆コミュ障に見える(顔がいい人限定)。円滑・流暢に喋ってくれる人のほうが少なくて衝撃的だった。あれは接客業として認めていいのだろうか。あれだけ目に見えない何かから自分を守るように喋られたら、客が心理カウンセラーにも思えてくる。私の知り合いの重度なコミュ障は、いつも自分自身の抱きしめるようにして自分の腕をさすっていた。「寒いんですか?」って聞いたら「守ってるんだ」って言ってたから確かにそういう気持ちが人間の中には湧き起こるんだと思う。まあそこまではいかないけど、動画の彼らも人とのつながりがほしいのにつながりを持ちにくくて、そのこじれた感じが周り巡ってしまって、驚くべき科学変化でホストになってしまったように思えてしょうがない。特に裏付けがあるわけでもないれけども。

大学院卒で元コンサル会社勤務(半年で退職)某ホストは「そる◯ぃ~もにいそう」と思った。普通に顔がいいし、さすが就活でコンサル受かっただけあるコミュニケーションの上手さに感心する。めずらしいタイプ。でも、個人的に一番好きなのはV系ど真ん中の顔した某代表ですね。この人は「悟りと鬱の間」って感じで不安定おしゃべりなのが良い。明け透けに自分を曝け出しているように見えるのも、いろんな鬱屈とした思いがあるのかな//////って。そんなことに勝手に闇を感じてひとりで死んでいた。

というような具合で、人生に潤いがなさ過ぎてホストのことばっかり考えているという話でした。

映画『ハードコア』

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STORY

愛する人を救いだし、記憶を取り戻せ!
準備はいいか?あなたは今から、愛する人を取り戻すためこの“クレイジーな世界”に放り込まれる。妻であり、絶命したあなたの身体をサイボーグ化し蘇生させた一流の研究者である美女・エステルが、エイカンという奇妙な能力を使うヤツに誘拐されてしまった。道先案内人は変幻自在のジミー。あなたの身体を狙うエイカン率いる傭兵たちを倒し、エステルと“記憶の謎”を取り戻すことが出来れば、あなたの存在する目的と真実を知ることができるかもしれない。幸運を祈る。

映画「ハードコア」公式サイト 

 REVIEW

まず、パルクール最高!!!!!

基本的に主人公視点のパルクールアクション映画なので、まずパルクールってこんな動くの…しんどい…ってなる。ZENくん(LDH所属のパルクール選手/島田善)とかマジすっげえな。最近観た『トレインスポッティング』 x パルクールの映像を思い出したりした。

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映画『ハードコア』ではこれよりも全能感があります。【追記4/2】これはタマヒュン!『ハードコア』本編映像&予告編 - YouTube

 

んでもって、エイカンとジミーが最高!!!!!!!!!!!

ロシア人の監督ということもあってエイカンとか、ソレに関わる組織の構成員は『時計仕掛けのオレンジ』を意識ということでいいですよね。っていうかエイカンみたいな悪役好きじゃ無い人いないでしょ…ずるいわァ…貴方はダニーラ・コズロフスキーさんというんですね。記憶しました。

ジミーは登場して死んでの繰り返しがクセになってしまった。これはジミー中毒だ。SMクラブみたいなところでラリってるジミーとパンクロッカーのジミーが好きです。大佐はめっちゃいいやつ過ぎて、本当に、不覚にも泣いた。ここまで書いて一切彼のアレコレについて説明してないことに気がついたけど、説明してもしなくても観ないと面白くないので、観てね♡

物語も映像も、ゲーセンとかにあるガンシューティングゲームの主人公無敵版だと思っていただければ問題ないです。それだけでわかると思うんですけど、基本的にめっちゃ酔います頭がガンガンしてきますが、大丈夫です。ヘンリー(主人公=自分)はもっと傷ついています。一観客ごときが頭を抱えてうんうんと唸りながら鑑賞しようと関係なく、物語は進んでいきますし、仲間は死んでいきます。とは言え、仲間はほぼジミーです。結局のところ、ヘンリーはひとりぼっちになるので、きっとここでも「魔王を倒した後の勇者の処遇」問題が起きてくると思いますね。

togetter.com

謎の国ロシアの今を切り取った風景(廃墟含む)や、東スラブ系民族の間を爆走するっていう映像自体が新鮮で面白いんですけど、睡眠を十分に取った体調が万全な時でないと本当に死んでしまうのでその点ご考慮ください。何卒宜しくお願いいたします。